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 ←4話 【企画会議】なにを撮る? →6話 驟雨
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青春アメとミエナイ彼女

5話 君島智幸について

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 ゼミが終わると、真季がカラフルなボーダーのリュックを「よっ」と背負ってから、智幸に声をかけた。
「ユキちん、ユキちん」
「だからユキちんって呼び方は…………はぁ、もういいよ。何度言ってもわかってくれないし」
 うんざりしたように智幸は肩を落とした。
「それで、なにかな?」
「あたしと携帯のアドレス交換しよーぜっ! ぜっ!」
「…………」
 一瞬、黙る智幸。唇をきゅっと結んでつと視線をそらした。
「携帯、いま壊れているんだ」
 こいつすっとぼけてんな、と俺は内心で訝しんだ。
 そう思う理由はいくつかある。
 一つ目、俺自身携帯電話は持ってないけど、職場では携帯を使っている。だから壊れたら代替機を渡されるはずで、代替機でもアドレスの交換ぐらいできるだろう。
 二つ目は智幸の目の泳ぎ方。なにかごまかしているときの逡巡だ。
 そして三つ目の理由、智幸と出会ったとき、俺が携帯持っておらず連絡できないことを馬鹿にしたくせに、当の本人が壊れているってのはおかしな話じゃないか。
 距離、取ってんだろうな。
 だけど疑問に思った。距離取るのは最悪な出会い方をした俺に対してだけじゃないのか。智幸が男の名前だと間違えて気分を害させた俺だけでは……。
 ひょっとして智幸はだれに対しても一定の距離を取るつもりなのか。自分の両手を伸ばして広げた円の中にだれも入れないつもりなのか。
「ユキちん、携帯のバイブ鳴ってるよ?」
「え?」
 智幸がつい反射的に自分のカバンをちらりと見た、その瞬間、カバンの中ににゅいっと手が伸びた。
 智幸はなにが起きたのかわからなくて呆然と口を開けて固まっているが、次の瞬間、真季の手には水玉模様のカバーに入った携帯電話(おそらく智幸の)があった。そしてパパッと慣れた手つきで操作していた。
「オッケーイ! ユキちんのアドレス、ゲットだぜ!」
「あっ!」
 ハッとした智幸。自分の携帯電話を返却されてようやく事態に気づく。
「これでいつでも連絡できるねユキちん。困ったらいつでも連絡してきなよ。あたしにSOSを出せばいつでもどこでも助けに行ってやるぜ! あたしも困ったことあったら連絡するから! 主にノート貸してとか! ノート貸してとか! ノート貸してとか! せいぜい覚悟するがいいさユキちん!」
「ちょっと! 勝手に人の……!」
「そうですお嬢さん。やつが盗んだのはアドレスじゃなく、あなたの心なのです! なんつって! フハハハハ! じゃ、あたしは七限目があるからこれでおさらば!」
 真季はバカみたいに愛嬌ある笑顔を振りまいて去っていった。「ちょっと!」と智幸が手を伸ばすが真季の姿はもう教室にない――と、見せかけて。
「あ、言い忘れてた!」
「戻ってきた!?」
 びくんと両肩を跳ね上げて驚愕する智幸。しかし真季が声をかけた相手は海だった。
「海ちゃん海ちゃん、今日は何時に教務課のバイト終わるんだっけ?」
「二十二時ぐらいかな」
「把握したぜ相棒! じゃあみんな、今度こそアデュオース! いい夢見ろよー!」
真季がぴゅーと北風みたいに教室から消えると、智幸は心底疲れたように肩を落とした。
「……笹島さんっていつもあんな感じなの?」
「わりとな。バカは遠慮しないんだよ。ほら、さわさわって触られて身を持って知っただろ」
 智幸が思い出したようにぶるっと身震いする。
「……もう、なにがしたいんだよ」
「仲良くなりたいんだろ、お前と」
「…………」
 智幸は頭痛がするみたいにこめかみを押さえながら自分のカバンを持った。
「……それじゃあ、私も帰るよ」
「うん。バイバイ、君島さん。気が向いたら僕ともアドレス交換してね」
 それについて智幸は黙殺したまま教室から出ていく。一方で海は別段気にせず、ひらひらと手を振って見送ってから、爽やかに白い歯を見せて笑った。
「いやー、さすが真季だね。あんなアドレスの交換の仕方があるとは」
「まったくもって褒められるやり方とは思わんけどな。あいつの辞書には遠慮とかパーソナルスペースとかって言葉は存在してねえのか」
「でも、なにもアクションしないよりはよかったと思うんだよね。真季はノート貸してなんておどけてたけどさ――」
 海はもう存在しない真季に微笑みかけた。
「去年一度も講義を欠席してないんだよね」
 そう、だったな。
「僕はね、真季のそういうところも好きなんだ。こないだも真季はね――」
「あーはいはい、お前らのくだらないノロケ話は聞かんぞ。どうしても聞かせたいなら時給を要求する」
 俺は手を振って会話を打ち切った。油断すると海は真季とのノロケ話を懇々と話はじめるからだ。
 そう、海と真季は付き合ってるのだ。
「俺たちもさっさと行こうぜ」
 荷物をまとめて海とともに教室を退出する。そして通路に出ると、ちらほらと二部生たちが教室移動していて俺は一度立ち止まった。
「……海、ちょい遠回りだが、こっちの通路から行こう」
「ん、どうして? 九は帰るんでしょ? あっちの道のほうが近道だと思うけど?」
「できるだけ人気がないところから帰りたい」
 海は小首を傾げていたが、俺がヤマトの制服を指差して察したようだ。「そんな気にするほど人はいないと思うけど」
 海の意見を無視して、俺は人通りが少ない通路を歩く。
「九。どうして今日に限ってバイト先の服装なの? 授業前にいろいろあったって言ってたけど」
「別に面白い話じゃねえよ。君島との待ち合わせに遅刻しそうだったから、バイト先から大学に直行したんだ。それで制服着たまま登校ってわけ。おかげでひでー目に遭った」
「ひどい目に遭った?」
「勘違いとすれ違い。……なあ、海。お前、前にどこかで君島と会ったことないよな?」
「会ったこと? 君島さんとは今日が初対面だよ。九から君島さんを迎えに行くって話は聞いてたから彼女の名前だけは知ってたけど」
「じゃあ、どうして君島が女だってわかったんだよ。智幸って名前だけ聞いたら普通は男の名前だと思わねえ?」
「僕の場合は親戚に『トモユキ』って名前の叔母がいるから先入観がなかったんだよ。漢字は朋友の朋に季節の雪で、朋雪。この漢字だと女性っぽいよね」
「それ、ずりぃ」
「あ、もしかしてさっき言ってた『勘違い』って、九は君島さんのこと男だと思っちゃったのかな?」
「ああそうだよ。俺が君島を男だと勘違いしてて、君島は君島で俺がヤマトの服装だから学生だと思ってねえんだよ。だから二人とも待ち合わせ場所に着いているのに気づかないで待ちぼうけ」
「あははは、『すれ違い』ってのはそういうことね」
「笑いごとじゃなかったんだぞ。俺、このままじゃゼミに遅刻すると焦ってさ、会社の服装で、『君島智幸さま二部メディア学科はこちらですー』って書いたメモ広げたんだぜ。学生の胡乱げな視線浴びまくり。アホ丸出しだったよ。恥ずかしさで死ぬかと思った。くそ、ほかにいい方法なにか方法が思いつけば……」
「君島さんも待ち合わせ場所にいたんでしょ? 男だって先入観があったかもしれないけど、ダメもとで九から声をかけるのもひとつの手だったんじゃない?」
「それは、そうかもしれんが……」
 俺は仕事で薄汚れた制服を見て唇を尖らせた。
「だ、だってさ、男ならまだしも、こんなダサイ格好で可愛い女の子に話しかけるの、その、なんつーか、結構、勇気いるっていうかさ……」
 それを聞いた海はニヤリと口を横に広げた。
「可愛い女の子……ほう、ほーう」
「なにが言いたいんだよお前」
「いや別に。ただ今年のゼミもなかなか面白くなりそうだなって。君島さんとは仲良くやれそう?」
「さあな。わかんね。わかんねえことばっかりだ」
「まだ会ったばっかりだからわからないのは仕方ないよ。けど、ちょっと気になるな。どうして君島さんはわざわざ一部から二部に転部してきたんだろう? 珍しいよね。その逆は聞くけどさ」
 どうして智幸は昼から夜へと切り替えたか? 確かに気になる点ではある。
「どうなんだろうな。そこらへんの事情は聞いてねえよ」
「秘密があるのかもね」
 海は意味深に口端を持ち上げた。
「は? 秘密?」
「――彼女、なにか特別な秘密があったり」
 海はうっすらと笑った。
「なんてね。根拠のないただの勘だよ。なんであれ、君島さんとは仲良くやりたいね。九の口から可愛いなんて言葉を引き出した女の子だもんね」
「可愛いのは顔だけだ。ちょっと名前が男っぽいからって理由だけであいつはへそ曲げて食ってかかってきやがる。性格は可愛げねえぞ」
 俺はブルゾンをくしゃりと掴んだ。
「なにが大学生だってわからなかっただ。あいつ、俺の格好見て心のなかで笑ってんだろうな」
「…………」
 通路の端まで歩いて一階へと階段を下りたところで、海が立ち止まった。
「九、七限は?」
「ねえよ。これからどっかで飯食おうかなって。海は?」
「僕はこれから教務課のバイト。だからこっち。ここでお別れだね」
「そっか。じゃあまたな。今年もゼミ、よろしくな」
「ねえ、九」
「ん、なんだよ」
「――――――――――――」
 え?
 キーンコーンカーンコーン、と七限開始のチャイムが鳴り響いた。海がなにか言った気がしたけど、チャイム音に掻き消されてよく聞こえなかった。
「……いや、なんでもないよ。じゃあ、今年もよろしく」
 なにを言ったのか問いかける前に、海の背中は教室移動する学生たちに遮られて消えた。
 海のセリフはハッキリと聞こえなかったけど、かすかに拾えた言葉をつなげると、
 ――見える世界すべて悪く見たら、そう見えちゃうよ。
 聞き間違いだろうか、そんな類のようなことを言っている気がした。

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