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 ←2話 ソイツの名は →4話 【企画会議】なにを撮る?
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青春アメとミエナイ彼女

3話 に、妊娠して学校辞めた!?

 ←2話 ソイツの名は →4話 【企画会議】なにを撮る?


 東星大学は一号館から八号館まで校舎があって、都心に大学を構えていてるせいで敷地面積は広くないが、校舎が密集しているせいでどの教室にもすぐにアクセスできるというメリットがあった。だから二部の講義が行われている六号館も待ち合わせ場所から徒歩ですぐだ。
 歩きながら、智幸との会話は特になかった。
 夜のキャンパスに慣れていないのか彼女の足元はどこか慎重だ。昼の時間帯とくらべて、周りの学生の数も少なく、静かで、印象がずいぶんと違うのだろう。
 このまま黙って教室まで智幸をつれていっては教授の目論みを無視するようなものだ。俺としても春学期は同じグループなんだから、できることならうまくやりたいと思って声をかけた。
「堺教授から俺のこと少しぐらい聞いてると思うけど、一応形式だと思うし、時間がないから歩きながらで悪いけど簡単に自己紹介しておく。社会学部メディア学科堺ゼミ所属、ゼミ長の三浦九な。サッカー選手の三浦知良の三浦に、『上を向いて歩こう』の坂本九の九」
「待っているときは上どころか恥ずかしそうに下向いていたけど」
「余計なお世話だ! 関心のある分野は映像制作。今年度は実際に映像機材を使って映像作るってシラバス見て、去年と一緒の堺ゼミを希望した。はい、以上。次、あんただ。簡単でいいから自己紹介してくれ」
「私は君島智幸、女。以上だよ」
「簡単すぎるだろ!」
「…………」
 智幸はどこまで自己紹介すべきか少し迷っているように見えた。数秒の間を置いて、「はぁ」と深い息を吐いて諦めたように答えた。
「将来的には広告の研究がしたいと考えてるんだよ。映像を使った広告に興味があったから、堺ゼミ。ちなみに、一部にいた去年も堺ゼミだった」
 確か堺教授は一部と二部の両方のゼミを担当している。受講する時間帯こそ違うものの、ゼミの内容は同じだったんだろう。
「ゼミのグループ決めだけど、春休み中に張り出された掲示板見たか?」
「ううん。忙しくて見てなかった」
「ほかのゼミはたいてい初回の講義のときにグループを決めるらしいけど、堺教授は春休み中に決めるんだ。講義中にグループ決めるなんて時間がもったいないってことで。で、俺と君島は一緒のグループだから」
 嫌な顔されるかと思ったけど特に表情を変えることなく「ほかの人は?」と質問された。
「俺と君島、それからあと二人いて、全部で四人の班な。ほかの二人については教室に着いたときに紹介する」
 そうして俺たちは六号館内へと移動した。三年前に新設された比較的新しい校舎の構造は、近代的なガラス張りで透明性が高く開放的な空間が広がっていた。
 いま俺たちがいる一階は、教務課、医務室、学生相談室、就職相談室など、学生生活を送る上で重要な場所が集まっていて、さらに地下には食堂がある。二階から上は教室となっていて、ゼミも二階の教室で行われる。
 智幸と一緒に階段を上り、二階のゼミ教室前に到着した。
「ここが堺ゼミの教室な」俺はドアを開けて中に入った。
もうすぐ講義がはじまるせいか、教室には堺ゼミの受講生がほとんど揃っていた。数えると現在十一人。あと来てないのは……どうやら海だけか。
「少ないね」
 智幸は教室をぱっと見回して口にした。最大収容人数六十人ほどの教室に十一人しかおらず、教室内はがらんとしている。
「一部はもっと多いのか?」
「今年度は知らないけど、去年はいまの二倍ぐらいの数はいたよ。これでほとんど?」
「そうだな。一年のうちに辞めたやつ結構いるからな。仕事が忙しいとか、学費払えなくなったからとか。あ、妊娠したってやつもいたな」
「に、妊娠!?」
「さすがにあれはレアケースだったけどな。まあでも、一部より退学者は多いんじゃないか」
 俺が智幸にそう説明しながら教室を進んでいくと「おっ、久しぶり九」なんて声をかけられた。「おはよー」「また一緒だね」「バイトから直行? お疲れー」と教室にいた学生たちが次々に挨拶してくれる。受講生の顔ぶれはほとんど昨年度と同じだから新鮮味はあまりない。
 一方、智幸は少し驚いている様子だった。大半は俺と同じ年代ぐらい学生なのだが、昼にはいないような学生がいるからだろう。
「……三浦くん」
「どうした?」
「あの人、どこかの教授?」
 智幸の視線の先、教室の最前列の席に還暦を過ぎた老女がタブレット端末をいじっている姿があった。
「ああ、京子さんな。教授じゃねえよ。俺たちと同級生。リタイアした人間が大学に通って勉学に励む、そういう人だっていまじゃそう珍しくないだろ」
「じゃ、じゃあ、あのスーツを着ている人は? ここ二年のゼミだよね。就活は来年のはずなのに」
「ああ、山さんか。会社切り上げて通ってんだよ。高卒で就職したらしんだけど会社がブラックらしくて、大学卒業して就職し直したいんだと。でも本当にブラックだったら大学行かせてくれないと思うんだけどな。冗談なのか本気なのかいまいちわかんねーんだよあの人。まあ山さんと京子さんは同じグループではないけど……って、おい、どうしたぼうっとして?」
「あ、えっと、なんていうのかな……。いろんな人がいるなって」
 ……いろんな人、か。
 なるほど。そっか、昼から来ればそういう反応にもなるか。
 それならきっと、例えば、五年も日の光の下で授業を受けていない人間も智幸の言う『いろんな人』に分類されるんだろう。
「普通が、いいよな」
「え、なにか言ったかな?」
「いや、なんでもない」
 俺が前を向いたそのときだった。快活とした挨拶が飛んできた。
「九―ちゃーん! こっちこっちー! へいへい、かっもーん!」
 俺のほうにぶんぶんと大げさに両手を振っている人物。女子大生、というよりはローティーン誌のモデルでもやってそうなほどの童顔で、服装はTシャツにデニムとラフな格好。瞳はリスのようにくりっと大きく、髪型はセミロングでくるくるとパーマをかけていた。
 同じ班のメンバーのひとり、笹野真季(ささのまき)だった。
「うるせえよ真季。いちいち大声出さなくてもわかる」
「おいすーおいすー九ちゃん。今年もまた一緒のゼミだと思ってテンションあがっちゃったのだ! ていうかどったんその服装? バイトからそのまま大学に来たの?」
「聞くな。いろいろあったんだよ」
「そっかそっか、いろいろか! いろいろなら仕方ないね! それならいろいろ今年も一年間ヨロシクってことで! グゥッ!」
 真季は満面の笑顔を浮かべてサムズアップすると、俺の隣にいた智幸に気づいた。だれだろうと疑問符を浮かべているので、俺は紹介した。
「彼女は君島智幸な。君島、こいつが俺たちと同じグループのひとり、笹野真季だ。テンション高ければ世の中なんとかなるって考えてるやつだ。いわゆるバカだ。ハッスルバカだ」
「ひっど! なにハッスルバカって! 勝手に変な俗称つけないでよ! もういいよ九ちゃんはあっちいってて。あたしはユキちんと仲良くやっからさー。よろしく頼むぜ、ユキちん!」
「ゆ、ユキちんって……」
「え、やだ? じゃあトモちんがいい? それとも、ちんトモ? ユキトモ? ユキリン? ユッキーナ? ユキユキ? ちんトモ?」
「ちんトモって……しかも二回言ってる」
 ネーミングセンスにどん引きしている智幸だったが、真季はお構いなしに接近。「よろしくね!」と雪を溶かす小さな太陽みたいな笑顔を浮かべて「ユキちんはほかに授業いつあるの? なに履修した?」「メディア史とってる? お、じゃあ一緒じゃん! いいねいいね!」「なんかわかんないことあったらあたしが教えてあげるよ。えっへん」「あ、でもノートとか取り忘れてたら助けてほしいなー、なんて。えへへ」と、自動小銃みたくひとりで勝手に喋っていた。智幸は話すペースになかなかついていけず目を回しているみたいだった。
「――真季、そんなに一方的に話したら相手が戸惑うよ」
 ふわりと、穏やかな声が聞こえて俺は背後に振り向いた。
 そこにいたのは同じ班の最後のメンバー、青山海(あおやまかい)が片手を上げてにこやかに微笑んでいた。
「海ちゃん! 海ちゃんだぁー!」
「やあ、真季。きのうの授業ぶり、かな」
唇に微笑みを乗せる海。体の線は細く、服装は桜色のシャツに茶色のジャケットを羽織って、下はベージュのスキニー。まるで海の性格を表すような落ち着いた色の服だった。
「九は一週間ぶり、になるのかな」
「そうだな。カフェにコーヒー飲みに行って以来だ。今日も手伝いか?」
「うん。それで危うく遅刻しちゃいそうだったよ。ていうか九、ヤマトの制服で登校なんてどうしたの?」
 どいつもこいつもツッコミやがる。まあ無理もないか。
「いろいろあったんだよ」
「いろいろ、ね」
 海はなにか察したようにちらっと智幸のほうを見やる。
「同じグループの君島智幸さん、だよね?」
 海は智幸を男と勘違いしてなかった。さすがだ。こいつは妙なところで鋭い。
「九から君の名前は聞いていたんだ。僕は青山海。これからのゼミ、仲良くやってくれると嬉しいな」
 にこっと柔らかな微笑をたたえる海。
 智幸はどこか勝ち誇ったような顔つきを俺に向け「ほら、男だと勘違いしたのは君だけだよ。最低は君だけ」と瞳が告げていた。
「よかったよ。ようやくまともそうな人に会えた」
 安堵の息をつく智幸。
 迂闊だな、と俺は内心ほくそ笑んでやった。
「そうだ君島さん。お近づきのしるしにコーヒーでもどうかな? ぜひ飲ませてあげたいんだ」
「え、コーヒー?」
 君島は缶コーヒーでもくれるのかと思っていたのだろう。だから、海のリュックからコーヒーメーカーが飛び出してきて度肝を抜かれたように目を丸めていた。
「ネパール原産のおいしいコーヒーがあるんだ。あ、珍しいと思った? 僕はネパールが好きでさ、時間があるときネパールに行ってコーヒー栽培を手伝ってるんだ」
 言いながら、海はリュックからは、魔法瓶、紙コップ、スティックシュガー、ミルク、マドラー、とまるで講義に関係ないアイテムを次々に智幸の前に展開。智幸の困惑する様は真季以上で目を回している。
「え、ちょっと、これは……?」
「化学肥料ナシの有機栽培。ネパールの地形を利用して、コーヒー豆を標高の高い場所で育てることによって有機栽培を実現可能にしている。フェアトレードのNPOに所属もしてるんだけど、僕の先輩がネパールのコーヒー豆栽培の土台を作ったんだ。最初はそれはもう大変だったらしい。ネパールの不適合な環境に合わせて、いちからコーヒー豆を研究して、苗から栽培して……けどね、苦労が実ったおかげで安全で安心でおいしい豆に仕上がってる。薬品の臭みがなくて、酸味やコクがあるのが特徴的なんだ。まだまだ伸び白があって、これからもっとクオリティの高い豆ができると思うんだ!」
「え、えっと、私が聞きたかったのはコーヒーの説明じゃなくて、どうしてコーヒーメーカーなんて持参しているかなんだけど……」
「バイト先で使っているコーヒーメーカーが壊れちゃってそれで今日は新しいやつを持ってきたんだ。あ、遠慮せずにじゃんじゃん飲んでいいよ! 一応砂糖は持ってきているけど、できるなら最初は砂糖なしで飲んでほしいな。コーヒー本来の甘みがわかるから」
 まともじゃなかった! と智幸が片眉をぴくぴく痙攣させている。
 俺は思わず笑ってしまう。困り果てた智幸の薄目がこちらに向いて、「早く止めてよ。いじわる」と言いたげだ。このまま放置しておくのも面白いが、さすがにここらが潮時だろう。もうすぐ講義がはじまるというのにコーヒーセット一式広げられたままは困る。
「海、教室で喫茶店でも開く気か。もうすぐ授業はじまるんだぞ。大学になにしに来てんだ」
「海ちゃんだってユキちん戸惑わせてるんじゃん! あたしに注意しておきながら! アルコールハラスメントならぬコーヒーハラスメントだ! コヒハラだ!」
「あ……」
 指摘されて、コンセントにコーヒーメーカーのプラグを差そうとしていた海が停止する。
「あはは。つい押し付けみたいになっちゃったね。ごめんね君島さん。まったく僕の悪いところだ。反省しないと」
 ばつが悪そうに頬を掻きながら、海は広げたコーヒー道具をリュックにしまっていく。信じられないことだが、こいつはネパールコーヒーを布教しようとたいてい一式持ち歩いているのだ。
「君島さん。こんな僕だけどこれからよろしく。またゆっくりしたときにでもコーヒー淹れるよ」
「……私、コーヒーって飲んだことないんだ。苦い飲み物ってあまり好きじゃなくて」
 それを聞いた途端、海の顔は幽霊でも見たように青ざめた。
「コーヒーを、飲んだことない、だって……? それは、それは……もったない。うん、もったいないよ君島さん! ああ、飲ませてあげたい。いますぐにでも淹れたてのコーヒーを飲ませてあげたいなぁ。どうしようかな……。よし、僕が手伝ってるカフェにこれから連れっててあげるよ。さあ行こう」
「行くな! これから授業だアホ!」
 海のコーヒー談義がはじまりそうになったのでやつの頭を叩く。真季は腹抱えて笑っていて、海は再び自省して苦笑した。
 智幸はといえば授業がはじまってないのにすでに疲れきった様子だった。

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