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 ←1話 春と夜間とヤマト男子 →3話 に、妊娠して学校辞めた!?
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青春アメとミエナイ彼女

2話 ソイツの名は

 ←1話 春と夜間とヤマト男子 →3話 に、妊娠して学校辞めた!?


 さらりと夜風になびくショートカット、照明が艶のある亜麻色の髪を照らしている。顔のパーツは端正に整っていて、瞳は黒真珠みたいに綺麗だった。背は低く、線の細い体つき。服装は水玉のシャツに、下はレギンスにショートパンツをはいていた。
 舞い散る夜桜に囲まれて佇む様は、桜の精みたいだった。
 俺は惚けたように立ちすくむ。視線と意識が彼女に奪われていた。
 宵闇に飲まれそうな彼女は儚げで、切なげで、そして綺麗で。周りの夜桜も彼女を映えさせる最高の背景となっている。
 フレームにおさめて映像にしたいほどの画。ビデオカメラを手にしていたら、きっと構えていた。
「あ」
 一瞬、目が合った。彼女と。
 心臓がドクンと跳ね上がった。
 亜麻色の髪が夜風になびくと、胸の奥で心が揺れる音がした。
 いままで味わったことのない感覚がして、とんでもなくアホみたいなことを考えてしまった。
 ――一目惚れしたときってこんな感じなのだろうか、と。
「……アホ」
 目を覚ますよう軽く頬を叩く。なに考えてんだ俺は。
 待ち合わせ、そう、待ち合わせだ。待ってるやつは男子学生で、早く君島智幸を探さないと。
 ほかに銅像の周りに人が待っていないか見回す。が、君島智幸と思しき男子学生はどこにも見当たらない。いま待っている学生は彼女ただひとり。
 君島智幸はどこにいる? 遅刻か? なにか特別な事情で遅れているのか? それとも単に時間にルーズなだけ? 待ち合わせを忘れてるってことはないと思うけど……。
 ひとまず俺は銅像前に立って待つことにした。横には二人分の空白を置いて亜麻色の髪の彼女が立っている。
 君島智幸は、訪れなかった。時間が経ってもそれらしき人物は一向に現れない。
 困った。ゼミの講義が六時十分から。いまが六時ジャストだから猶予はあと十分。このままずっと待ちぼうけくらっていたらゼミに遅刻する。初日から遅刻ってのは勘弁してほしい。
 ちらっと横に視線を滑らせる。隣にいる彼女も、いまだだれかを待っている様子で何度も携帯で時間を確認している。
 時折、彼女が俺にチラチラと視線を送るが……気になるのは当然だろう。ヤマトの制服姿で荷物も配らず待ちぼうけくらってんだから。
「――ん」
 待て。
 そうだ。俺、いま制服じゃないか。傍目から見たらバリバリ荷物と笑顔を届ける人じゃん。『場所に届けるんじゃない、人に届けるんだ!』の人じゃん。相手から気づけないのは当然だ。
 失念していた。俺から君島智幸に声をかけるつもりだったけど、君島智幸だって俺を探しているかもしれない。もしかしたらとっくに君島智幸とすれ違っているんじゃないか。だとしたらまずい。
 どうするか。
 ふと、トートバッグの中身がちらりと見えて――ある方法が脳裏を駆け巡った。
 だけど迷った。なんて原始的、なんて非文明的。こんな方法、悪目立ちするだけだ。
 思考の回転数を上げてほかの方法を考えるが、まるで妙案が思いつかない。携帯電話を持ってないとこうも面倒なのか……。
 マジでこれやるのか。苦肉の策にもほどがある。
 迷えば迷うほど時間だけがいたずらに流れていく。この間、君島智幸は俺が待ち合わせ場所にいないと思いこんで、慣れない夜のキャンパスをふらふら彷徨っているかもしれない。ひとり心細い思いをしながら。
「……ああもうっ」
 半ば自棄気味に俺はトートバッグから取り出したのは、ルーズリーフと赤ペン。俺はまっさらなルーズリーフに赤でデカデカと文章を書きこみ、そして目立つように高らかと掲げた。


〇君島智幸さま 社会学部二部メディア学科はこちらです


 恥ずかしさで死ぬかと思った。
 いままでキャンパス内をヤマトの服装で歩いていても学生に胡乱げに思われなかったのは、かろうじて仕事中だからと勘違いしてくれたのだろう。だが、「この中に君島智幸さんはおられますかー、こっちですよー」と荷物運ぶはずの人間が格安バス旅行のツアーコンダクターみたく集合の旗を振っている。傍から見れば奇妙だ。アンバランスだ。わけがわからない。
 ほら見ろ、行き交う学生たちがチラチラ怪訝な視線を俺に送っている。なかにはクスクス笑っているやつもいる。くそ、見せ物じゃねえぞ。あ、いや、見せ物ではあるけど。
 あらゆるメディアが発達した現代社会で、紙に書いて伝えるという原始的な手法。メディア学科に在籍しながらこの程度のメディアの扱い方しかできないのか俺は。自分の機転の利かなさとアイデア不足に嘆く。
 もしこのまま君島智幸に声をかけられなかったらとんだお笑い種。……恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。針のむしろだ。頼む。頼むからさっさと気づいてくれ――
「あの」
 と、中耳に響いた声。息に混じったかすかな戸惑い。
 横を向く。声の主は、俺の横にいた亜麻色の髪の女子大生だった。
「それ……、そのルーズリーフ、どうして?」
 彼女が『君島智幸』の文字を指差しながら、意外そうに目を丸めている。
「君が……三浦、九……?」
「えっ、と」
 今度は俺が驚いて目をパチパチと瞬かせた。どうして彼女が俺の名前を知っている? 彼女とは初対面のはず。なのにこの状況で話しかけてくるということは……。
「あ、そっか。まさかあんた、君島智幸――の友人?」
「……え?」
「いや、君島智幸が来れなくなったから、代わりに俺への言伝を友人に頼んだのかなって」
「私が君島智幸だけど」
 たぶん、俺はいま間抜けみたいにぽかんと口を開けていたと思う。
 彼女のセリフがすぐに理解できずフリーズした思考のまま、目の前の美少女を見直す。長い睫毛にうっすらと桜色に塗られた唇。女性特有の胸元の膨らみは……そこそこ、ある。
 以上の外見と彼女のセリフから導き出される答えは一つだった。
「え、え――ええええっ!」
 仰天した。君島智幸って女かよ!
 いや、そうだ。冷静になって考えれば、教授から性別は教えてもらってなかった。あの教授は学生なら男女関係なく君付けで呼ぶ。おまけにトモユキって名前が勘違いに拍車をかけて、俺が勝手に男だと思い込んでいた。
「……君、正直どうかと思う」
「え、ど、どうかって?」
「なんでじっと見てるのかな………人の胸を」
「い、いやっ、こ、これは他意があるわけじゃなくてっ!」
「…………」
 智幸のジト目が突き刺さる。痛い。
「違うって! 君島智幸って、智幸って名前だろ。だからてっきり男の名前だと思って!」
 口にした瞬間、智幸は目尻をきつく吊り上げる。むっとした不機嫌面だった。
「最低」
 あ、やっべ。これ地雷踏んだ。
「悪かったね、男の名前っぽくて」
「あ、いや、聞け、俺の話を聞いてくれ! 教授からあんたのこと詳しく聞いてなかったんだ。だから勘違いして女だってわからなかったんだ。ほら、トモユキなんて男の名前だと思うだろ。フツーはだれが聞いても男だと思うだろ。な、なっ」
 まずい。慌てて弁明すればするほど余計なこと喋ってどつぼにはまっている気がする。その証拠にほら、智幸の睥睨は鋭くなっていく。
「……なに、智幸が女の名前だとおかしいって言いたいのかな。変だって言いたいんだ」
「へ、変とか、そういうつもりはなくて……」
「どうせ名前からじゃわからないよね! ふん、おかげさまで小さい頃からほかの人にも散々そう思われ続けたよ。はいはい、どうせおかしいと君もそう思ってるんでしょ。そうなんでしょ。母親が智美で父親が幸雄でそれを組み合わせたしょーもない名前だよ」
「いや、だからそれは」
「でも、君だっておかしいでしょ。大学のキャンパスに仕事の服装でいるんだから」
「なっ……!」
「君が私を〝わからなかった〟ように、私だって君を大学生だって〝わからなかった〟よ。ヤマト男子さん」
 ふふんと、言い返してやったと口端を持ち上げる智幸。その小生意気な態度に俺はぎりっと歯噛みした。こいつ、可愛くねえぞ。
「ヤマトの服装で登校するハメになったのはこっちだっていろいろ事情があるんだよ。聞くか上司への愚痴。契約社員の嘆き」
「ふん。事情があるっていうなら違う人に頼めばよかったでしょ」
「俺はゼミ長なんだ。教授に面倒頼まれたんだ」
「ゼミ長って偉そうに言うなら携帯ぐらい持っててほしいよ。教授に聞いたら携帯持ってないって言うし。このご時世に携帯持ってない大学生ってはじめて見た。現代に生きる原始人だね、君」
「バカにしてんのかお前。好きじゃねえんだよ携帯。いきなり電話かかってきて煩わしいし、ピコピコうるせえし、金もかかるし」
「連絡できたらすれ違わなかったのに。ま、君みたいに人の胸ばっかり見るいやらしーひとに番号なんて知られたくないけど」
「んだと……っ!」
 あまりにも小憎たらしい彼女の態度に感情的になった直後、クスと笑い声が聞こえた。ふと我に返った俺は周りを見て、「なにやってるの、あれ」「さあ」と周りの学生がクスクス笑っていたことに気づいて、途端恥かしくなってうつむいた。
 なにやってんだ。落ち着けよ。こんなところで言い争いしてどうする。
「……ねえ。それ、しまってよ」
 智幸も恥ずかしくなったのか、耳を赤くして周囲の目を気にしながらぼそぼそと言った。
「ルーズリーフ、早くしまって。ほら早く。君、持ったまま怒鳴ってた。恥ずかしい」
「わ、わかってるよ!」
「あと、ゼミに遅刻しちゃうよ。連れてって」
「それもわかってる。ほら、こっちだ!」
 俺はルーズリーフをくしゃくしゃに丸めてトートバッグに放り込み、智幸とともに銅像をあとにした。

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