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 ←27話 世界を構築するのに必要な人間の最小単位 →最終話 ラストカット
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青春アメとミエナイ彼女

28話 振り向いて彼がいたなら

 ←27話 世界を構築するのに必要な人間の最小単位 →最終話 ラストカット
   ■クロスカッティング 君島智幸

 羽田空港ターミナルから眺める空は灰色の雲に覆われていた。西から流れてくる低気圧のせいで関東の天気はこのまま下り坂らしい。
 ついてないな。本当だったらきのう実家に帰る予定だったのに、天候不順で飛行機が欠航してしまった。爆弾低気圧っていうんだっけ? とにかく香川は大荒れの天候のせいで、私は羽田空港そばのホテルに一泊した。
 不運は重なった。実家に送った荷物の中に携帯の充電器も入れてしまった。そのせいで携帯はすぐにバッテリーが切れていまではただの重りになっている。
 コンビニで充電器を買おうかどうか迷ったけど、ホテルの電話からお母さんに連絡を入れられたからとりあえず問題はなかった。向こうは天候のせいで旅館のキャンセルが相次いで電話対応に忙しそうだった。
 携帯が使えないのは不便だけど、まあ、うん……いまは携帯見れないほうがいいのかなと思う。画面を真っ暗にしてれば、後ろ髪を引かれることもない。
 今日の便はどうやら高松空港まで飛べるみたいだ。搭乗手続きはすでに終わって、あとはセキュリティーチェックして搭乗するだけ。
 ターミナルを歩いているとガラス窓にうっすらと自分の姿が映った。髪、自衛隊に入隊する女性みたいに短くなっちゃったな……。
 結局、香川に戻るのか……。あーあ、お父さんますます威張り散らしそう。ほら、オレの言うことが正しかっただろうって。
 帰って来るなら髪切れって言ったのもお父さんだった。正直、悩んだ。髪を切るのは屈辱的だった。食事を忘れるほど悩んで悩んで、結果、従った。
 お父さんだって断髪は本心じゃないんだろうけど、ケジメ的な意味合いで父親の威厳を保ちたいんだろうな。怒りを通り越すと呆れるってよく言うけど、ホントだった。
 ゼミのみんなには悪いことしたな。短髪になって驚かせて、撮影の雰囲気壊してしまった……。
 でも、申し訳ないと思いながら撮影に向かったのは……期待していたんだろうな、私。もしかしたら彼なら、こんな短髪の私でもって。
「……ごめん」
 ばか、だよね。いまさら謝ってもどうにかなるわけじゃないのに。どうしようもないばかだ、私は。
 三ツ矢サイダーを飲んで気分を紛らわす。空っぽの胃に水分だけが溜まる。食事がうまくのどを通らないけど、三ツ矢サイダーはなんとか入る。
「――と、うわっと」
 カロリー不足のせいか、握力が一瞬なくなってペットボトルを落としそうになる。危うくキャッチして事なきを得た。
「あ」
 そういえば、前にもこんなことがあった。
 あのときはまだたくさん残っていた三ツ矢サイダーこぼしちゃって、彼が落ちたペットボトルを拾ってくれた。
 あれ。
 あのとき、彼、なにか言ってくれたはずだ。なんだっけ。体調が崩れかけていたときだから記憶が曖昧だ。落とすなよ? 違う、いやそれも言ってくれたけど、もっとすとんと胸に落ちるような言葉。あれは、あれは――
 ――全部なくなったわけじゃない。残るやつもあるんだ。
「ああ」
 三浦九、九……。
 胸の中で彼の名前を呼ぶ。後ろ髪を引かれるように振り向いた。ターミナルを行き来する雑踏。こんな場所に彼がいるわけはないのに、それでもどこかにいるような錯覚を起こさせた。
 いつも私がひとりでいると彼は現れた。
 二部に転部した最初のゼミ。私はここでうまくやっていけるのか不安で大学の屋上でひとりひざを抱えながら小さくなっていると彼が姿を見せた。病気で寝込んでいるときだって荷物運んできて、映画を観終わってひとり彼を見送っていると戻ってきてくれた。
「……ダメ、だよ」
 自分に言い聞かせる。
 ジュースが売っている売店、人が列を作って並ぶ受付、新聞を読んでいる人が座っているシート。あちこち探ろうとする視線を、強引にまぶたを閉じてシャットアウトする。
 溢れてくる気持ちを深淵に押しやる。頑丈に鍵をかけて、もう振り向いてはダメだと私は搭乗口へと急いだ。

 ――君島。

 慌てて振り向いた。
 強固だったはずの決意は簡単に揺らいでしまった。
 声がしただろうほうを見て――けれど視界に彼が映らない。
 あれ、あれ……。
 彼は長身で目立つ。なのに、交差する人群れに彼を探ろと視線を向けても、いない。どこにもいない。
 中耳には私の名前を呼ぶ声が残っていて、あれ、それってつまり……。
「うわ、うわぁー……まいっちゃうな、もう」
 くしゃりと自分の髪を掴んでうつむく。ドン引きだよ。自分で自分に引いちゃうよ。幻聴だなんさ。
「私、どれだけ彼を……」
 眼球の裏がぐしゃぐしゃに熱くなった。視界が滲んで、うっかりすると余計なものがこぼれそうだったから上を向いた。
 やけに重く感じるカバンを抱える。セキュリティーチェックを終えて、もう搭乗するだけ。このゲートをくぐれば後戻りはできない。
「……さようなら」
 どんなときでも現れた彼は、最後はこなかった。
 胸の中が焼き焦げそうになりながら、私は飛行機へと搭乗した。
 そして東京を発った。

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