スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←22話 これからのこと →24話 ミエナイ撮影
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【22話 これからのこと】へ
  • 【24話 ミエナイ撮影】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

青春アメとミエナイ彼女

23話 向き合い方

 ←22話 これからのこと →24話 ミエナイ撮影


 その日、広告論の授業がいっさい頭のなかに入ってこなかった。
 まどろんでいた。強烈な眠気が襲っても、もやもやとした気持ちが快眠を許さなかった。
 意識が覚醒したのは、同じ授業を受けていた真季が俺の肩を叩いてくれたからだ。
「九ちゃんなにぼけっとしてんのさ。もう授業は終わってるよ」
 授業終了のチャイムすら気づかなかった。
 辺りを見渡せば、学生たちがカバンをぞろぞろと退室している。俺ひとりだけノートを広げたまま席に座っていた。
「ちゃんと授業聞いてたの……って、うわ、ノート真っ白じゃん。広告論試験厳しいって話だよ。ぼやぼやしてたら単位とれないぞー」
 やれやれと、真季はどこぞの外国人みたいに大げさに肩をすくめてた。
「HEY、ボーイ。ノートを取り忘れるなんて困ったちゃんだ。そこで君に朗報さ。本日紹介するのはこれ、真季ちゃん広告論ノート! ビューティフルガール真季ちゃんのノートを、いまならなんと、なんとっ、学食十年分で手に入れられるんだぜ! HAHAHA! さあさあ、限定一名様の早いもの勝ちだ。欲しかったらいますぐTELだ!」
「学食十年分はぼったくりすぎだ」
「いまならオプションで海ちゃんがタンブラーに入れてくれたアイスコーヒーも付けちゃうぜ!」
「海に会いにいけばいつでも飲ませてくれる」
「おうおう、ダンナぁ。この真季ちゃんの好意を無視するってのかい」
「お前のキャラ設定がぶれすぎててわからねえよ」
 カバンにノートをしまって帰り支度をしていると、真季が顔色をうかがってくる。
「……なんだよ。人の顔をジロジロと」
「いやー、真面目な九ちゃんがノートとらないなんて珍しいなーと思って。そういやこないだの撮影のときもぼうっとして様子おかしかったし、だいじょーぶ? 体調悪いの?」
 こないだの撮影というのは、秋宮、佐竹、月野の三人をまとめて撮ったときだ。
 あのときの俺は、傍から見れば心ここにあらずといった感じだったのだろう。細かなミスを連発しただけでなく、なにを撮っても納得のいく画に仕上がらなくてリテイクを何度も重ねた。
 被写体の聞き役として機能していた智幸がいなかったのも、うまくいかない一因だったかもしれない。
 そう、智幸は撮影に参加しなかった。
 本来なら智幸もそこで撮ってクランクアップの予定だったが別日になった。
 撮影不参加の連絡は事前にメールでもらっていた。『本日の撮影に参加できません。ごめんなさい』と。
 詳しい理由は聞けなかった。
 欠席した智幸の身を心配している自分と、正直、あいつの撮影が順延してほっとしている自分がいた。
 真季は智幸の様子を気にしていた。「また体調崩してるのかな」なんて。
 真季は知らないのだ、俺と智幸が池袋に遊びに行ったことを。もし知っていたなら、その日の様子を再現実況しろと詰め寄ってきたはずだ。
 海の配慮だろう。俺と智幸がもしうまくいかなかったら――そういうことを見越して真季に話を広げなかったのだ。
 俺と智幸が遊びにいくなんてとびっきりのネタをよく黙っていられたと思う。本当にあいつは気配りのできるやつだ。
 海だって俺たちの結果がどうなったのか気になっているんだろうけど、無理に聞きだそうとしなかった。撮影でミスばっかりしていた俺を見て、海はなにか察したように帰り際「話したくなったら、言って」と気持ちを整理する時間をくれた。その優しさがありがたくて、でもなにも話せなくて申し訳なかった。
「ねえ、九ちゃんなにかあった?」
 真季の鮮やかな瞳に、俺の虚ろな瞳が投影された。
「……なんでもねえよ」
「なんでもないことないでしょ。顔色、悪いよ。ほら、なんかあったならこの真季ちゃんが相談に乗ってやるのだぜ。この海ちゃんが淹れてくれたアイスコーヒーを飲みながらともに語ろうではないか、兄弟」
 そう言って、ごくごくと勢いよくタンブラーのアイスコーヒーを飲む真季。
 ……どうする。
 真季に智幸の事情を相談すれば少しでもいい方向に事が運ぶのだろうか。五里霧中の状態に進むべき光は射すだろうか。
「真季は――」
 言いかけて、しかし気の引ける思いがストッパーとなって口をつぐませた。
 智幸がずっと抱えてきた問題を、俺が勝手に喋っていいのだろうか。打ち明けるにしても、まず智幸みずから話したいんじゃないだろうか。
 どうする。どうすればいい。
 相談したほうがいいんじゃないかと思う反面、易々と話してはいけない気もする。板挟みになって頭の中がこんがらがる。俺はどう言っていいかわからず、結局、直球なのか変化球なのかよくわからないおかしな言い方をしてしまった。
「真季はさ、海が実は女の子だったらどうする?」
「ぶ――――っ!」
 真季が盛大に吹き出した。九十年代のギャグアニメさながらアイスコーヒーが霧状になって俺の顔面に吹きつける。
「おい汚ねえなっ、飛ばすなよ!」
「九ちゃんが変なこと聞くからいけないんでしょ! さすがに飲んでいたコーヒ-吹くわ! なに考えてるのもう!」
「うっ……、ああ悪かったよ! きのうそんな話がテレビでやってたんだ。それだけだっ。じゃあな!」
 俺はカバンを背負って教室から出ていこうとして、けれど真季が俺の肩に手を置いた。
「ちょい待ち!」
 振り向くと真季の目の色は真剣だった。
「一応、考えるから。あたしの好きなラジオのパーソナリティーは荒唐無稽な質問だってちゃんと考えて答えるもん。だからちょい待ってて」
 真季は浅く目を閉じて、眉根を寄せて腕を組む。うーんと唸り、もし海がそういう状況になったらと想像しているように見えた。
 しばしの熟考後、目を開けた真季は張り詰めた表情で言った。
「海ちゃん、実は尻フェチなんだよ」
「ぶ――――っ!」
 今度は俺が盛大に吹いた。げほげほっとむせ返る。
「おい! お前こそなに言ってんだ」
「前にね、その手のDVDを海ちゃんの部屋で見つけた。うん、フェチ見つけたりって感じだったよ」
「ふざけてんのか」
「ふざけてないよ。そっかー、男の子だなーって思ったよ」
「なんで海の性癖がさっきの質問に答えることになってんだ。てか俺すら初耳だったわあいつのフェチ。真季は一体なにが言いたいんだよ」
「それでも恋はしないんだ」
 きっぱりと真季は言い切った。
「海ちゃんはそういうDVD観ても、えっろい格好の壇蜜見ても、佐々木希の悩殺ショットでも、それでも恋はしない。恋は、あたしにだけしてくれる」
 恥ずかしがるどころか両手を腰に当ててえっへんと誇らしげだ。
「デートしているとき、ひょんなことがきっかけでこんなこと言ってくれたことがあった。それはカッコつけかもしれないけど、でも言ってくれたんだ。肉体的なものに抱く感情は恋じゃなくて興味でしかない、って」
 真季は胸を、その奥にある人ならではの核をぽんと叩いた。
「あたしだって海ちゃんと同じだよ。同じなんだ。海ちゃんがなんであっても、関係ないよ」
 真季の視線はこの世界に形として現れない部分に向いているようだった。
 綺麗な答えだとは思う。だからといっていちいち文句をつけるつもりもない。
 ただ、そう割り切れる自信をどうして持ち合わせているのかわからない。
 それで真季は納得できるのか。割り切れるのか。
「……それで事実を受け入れられるのか? 恋人がそうであったとしても、真季は心の決着をつけられるのか?」
「あたしの言うこと信じられない?」
 真季の心の着地点に、俺はそう簡単に着地できない。これは単に俺が逃げているだけなのだろうか。考えているフリして、実際には智幸の真実に目を瞑って現実逃避しているだけなのだろうか。
「まあ、そうだね。それはやっぱり、その場面に直面した人間だけが説得力のある答えを出せるんだろうね。直面してないあたしがなにを言っても、きっと嘘っぽくなっちゃうんだろうな。だからわきまえていうなら、ちっぽけな想像だけで状況設定した、いまの段階で言えるあたしの答えってことになるね。言い方ややこしー」
 真季は腕を組んでもう一度考えるようにあごを引いた。二度三度うんうんと頷いてから、「これってさ」と人差し指をピンと立てる。なんとなくその仕草が海っぽかった。
「オンナとかオトコとか無理に枠に当てはめて考えるんじゃなくて、単純に好きかどうか、もっと言えばシンプルに一緒にいたいかで考えればいいのかな。だったやっぱりそう、、あたしが海ちゃんに抱く気持ちは変わらないよ。――だってさ、好きなんだもん」
 あっけらかんとした顔つきで言い切った。
「好きになっちゃったんだからしゃーなしだ。そうそう、好きなんだもん。うひょー、自分で言って引くぐらいラブがマックスじゃん。アタシの名前はマキマックス。海ちゃんの健康と恋愛を守ります」
 どこぞのキャラクターのモノマネをして笑う真季は陽光を浴びるひまわりみたいだった。俺の目がくらむほど眩しかった。眩しすぎて、目を瞑らないと自分の心が焼かれそうなほどった。
「あ、ちなみにDVDですが、海ちゃんはTHUTAYAでレンタル派です」
「あいつのキャラが崩壊する!」
「アタシはマキマックス。海ちゃんの健康と恋愛を守ります」
「プライバシーを守ってやれ!」
「ニシシ。なーんてね」
 おどけたようにカラカラ笑う。
 そこでわかった。真季は沈んだ俺を笑わせようとしていることに。海のフェチがどこまで本気でどこまで冗談なのかはわからないけど、俺を元気づけるように明るく笑っていたのは間違いなかった。
「九のダンナぁ。仕方ねえからあちきがタダで広告論のノート貸してやるでげす」
「だからもうキャラ設定がよくわかんねえよ。……ノート、助かる」
「うむ。助けてやったでげす」
「……真季は、大人だな。ずっと」
 きょとんと目を丸める真季。ぱちぱちと瞬きしたあと、目を細めて俺が偽物なんじゃないかと懐疑的に瞳が染まった。
「九ちゃんがあたしを褒めるなんてはじめてだ……やっぱりおかしいままだ。しっかりしてよ。もうすぐトモちんの撮影なんだから」
 そうだ。とびっきり大事な撮影があとワンカット残ってる。
 智幸と向き合う日は、もう目の前に迫っているのだ。



   ※



 夢を見ていた。
 薄暗い世界で、なぜか俺はカメラの前に立っていた。着ている服装はバイトの服装で、この格好で撮られると思ったら無性に恥ずかしくなった。
 ぽつぽつと雨が降りはじめた。雨が降って来たんだから撮影は中止だと思っていたが、濡れていたのは俺だけだった。
 目の前にいるだれかがカメラをセッティングしていた。暗がりのせいでカメラマンの顔がよく見えない。黒いシルエットみたいにどこのだれだか判別できない。
 ソイツはカメラを回しながら俺に質問した。
 ――君島智幸とは同じゼミ?
 質問の意図がよくわらなかったが、一応イエスと答えてやった。
 ひとつ答えると、調子に乗ったのかカメラマンは次々と質問をぶつけてきた。君島智幸は何歳? 君島智幸の趣味は? 君島智幸の好きな食べ物は? 君島智幸はどういう高校生活を送ってきた? 君島智幸は家庭でどのように扱われていた? 君島智幸は家族からどう見られている? お前は君島智幸をどう見ている? 君島智幸のなにを知っている? なにも知らないんじゃないか? どういう関係を望んでいるんだよ? 悩んでるフリして実際はただ現実逃避してるだけだろ? あいつのカラダがどうなってるか知ってんだろ?
「黙れよ」
 やかましかった。
 無神経な質問をぶつけられて腹立たしかった。しかもなにが苛立つって、ソイツはへらへら笑いながら聞いてくるのだ。こっちを馬鹿にしてる。
 どこのどいつだと思ってズカズカ近づいてソイツの正体を見極めてやった。
 俺だった。
 ぎょっとした。父親でも、母親でも、中学の知り合いでも、高校の知り合いでも、阿藤でも、鈴木果歩でも、海でも、真季でも、智幸でも、ほかの二部生でもない。俺だ。私服姿の俺。
 ほかのだれでもない。俺が俺のことを嘲笑していた。
 強く、拳を握った。眼前の私服姿の俺をぶん殴ってやろうと振りかぶった。
 ――君島智幸のこと好きだっていうなら、どこに惚れたんだ?
 殴れなかった。
 ヤツの質問が俺の右手を金縛りみたいに停止させた。
 すぐに返答ができなかったのだ。
「――あ」
 目が覚めた。
 気分は最悪だった。寝汗をびっしょり搔いていて、口内は粘っこい唾液で満たされていた。洗面所で顔を洗ってうがいをしても気持ち悪さが拭えない。
 鏡で顔を見ると頬がこけていてひどい顔をしていた。
 胃がぐるぐる回っている。気分が悪い。吐きそうだ。
 目線を横に滑らして壁にかかったカレンダーのメモ書きを見て、今日一日の予定を確認する。
 今晩は智幸の撮影だ。
 ああ。結局、気持ちが散らかったままこの日を迎えてしまった。
 どんな顔をしてあいつに会えばいいのか、いまだはっきりしていない。
 俺はあいつをどう見る?
 俺が想うのは――


関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【22話 これからのこと】へ
  • 【24話 ミエナイ撮影】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【22話 これからのこと】へ
  • 【24話 ミエナイ撮影】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。