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 ←21話 ミエナイ彼女 →23話 向き合い方
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青春アメとミエナイ彼女

22話 これからのこと

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   chapter.4


   cut.9 秋宮和夫

「ぼくは文芸サークルに所属してるんだ。そこで小説書いてんだけどさ、毎度締め切り前は徹夜なんだよ。計画性がなくてね。眠気と戦いながらキーボード打鍵していると頭くらくらしてきてさ、ステッキ持った妖精が見えるんだ。マジだよ、マジ。妖精に応援されながら薄れゆく意識のなか執筆して、『やっと完成した!』って喜んで……ハッと目を覚ますの。うん、夢見てたんだよね。原稿完成したのも夢の中だけだよね。実際は寝落ちして原稿落ちたよね。あとこの話、夢オチってもっとも許されないオチだよね。……次、がんばります」

   cut.10 佐竹一成

「携帯アプリ開発で一発当てたい! そう、在学中に起業できるぐらいに! というわけで、いま絶賛開発中なのがダイエットアプリ、その名も『萌えキャラと一緒に脂肪燃焼しよしよっ☆』。形式的にはレコーディングダイエットを採用していて、その日、口にしたものを入力すると自動的にカロリーが計算されるんだ。
 しかも、萌えキャラが不足しがちな栄養素を補えるメニューまで紹介してくれるんだ。『ビタミンB1を摂るには豚汁がオススメだよお兄ちゃん!』って感じ。もちろん萌えキャラの属性は数種類用意。ツンデレ、ヤンデレ、妹系などなど。
 さらに! このアプリのセールスポイントは目標体重に近づくにつれて萌えキャラがご褒美してくれるんだっ。最初はデレボイス、そして次にスチル挿入、最後に……むふ、むふふっ。萌えキャラの服が(以下カット)」

   cut.11 月野真美子

「メディアって聞いたらなにを思い浮かべる? テレビ? ラジオ? 携帯電話? ゲーム? 本? うん、どれも間違ってないよ。でも実はね、身体だってメディアなんだよ。身体を通して伝える、だから身体メディア。私は劇団に所属しててコンテンポラリーダンスをやってるんだ。どんなダンスかっていうと、こんな感じに身体を……え、よくわかんない?
 言葉で説明するのは難しんだけど、なんていうかな、私は身体を通してだれも気にしないような美や価値観を伝えたいんだ。じゃあどんなものか具体的に言うと……あー、言葉にしにくい! 知りたきゃぜひ劇場まで観に来やがってください!」



   ※



 ――これから、智幸とどう向き合えばいいんだ?
 展望台で智幸が打ち明けた真実を受けて、俺は頭が真っ白になった。
 これまでの智幸に関するあらゆる記憶がすべて裏返った。思考回路がぷつりぷつりと途切れて、壊れたパソコンみたいに停止していた。
 結局、智幸とは展望台で別れた。俺は声をかけることも追いかけることもできなかった。
 それから数日経って、時間を置いたいまでも智幸の事情をまだちゃんと飲みこめない。
 心と体で性別が違う。なにかのドラマでちらっと観た程度の浅い知識だけど、自己認識にズレがある人がこの世界にいることは知っていた。それに智幸が当てはまるのか、どこまで病的なものなのか、定かではない。けれどあのときの真剣な口ぶりから、おちゃらけではないことぐらいわかる。
 連日寝不足だったせいか意識はぼやけて頭が重い。ふらふらしながらも智幸の事情に当てはまるだろう図書を片っ端から手に取った。
 そう、俺はいま大学の図書館にいた。
 読書コーナーに設置された長机に腰をかけてそれら本を読みはじめると、これまで智幸と過ごしてきた時間が脳裏を過ぎった。
 思い返せば、おかしな点はあった。
 企画のプレゼンの際、真季が水着を着せようとして智幸は動揺して声高に拒否していた。あれは照れくささだけじゃなく、もっと別の気持ちが潜んでいたのだろう。
 鈴木果歩がヒロイン役に抜擢されて、あいつは自分では届かない世界を見ているようにうつむいていた。
 俺が見舞いに行ったとき、智幸は失神した。気を失うなんて大げさだと考えていたが、あれはいままで俺に見せたくなかった部分を見られそうになってパニックを起こしたんだろう。
 人の器に同居する矛盾した二つの部分。ココロはオンナで、カラダはオトコ。
 それならこれまでの言動に合点がいく。あいつが展望台で俺のしようとしたことに謝ったのだって……そういうことだ。
 でも、待てよ。じゃあ、こないだ一緒に池袋に行った智幸はどっちなんだ。心は女の子なんだろ。なら、だれがなんと言おうと女でいいじゃないか。いや、実際に体はそうじゃない。映画館で握った手だって、桜色の唇だって。いやいや、ちゃんと内面を見てから物を言えよ俺。智幸の振る舞いは女の子じゃないか。ゆるキャラに興奮している様や夜景見て爛々と輝かせる目。そうだよ、あの池袋の時間は女の子である智幸と一緒にいたんだ。いやいやいや、その理屈は強引だろ。じゃあ体の部分は気にしなくていいのかよ。無視か。無視。いやいやいやいや、さっきからごちゃごちゃうるせえよ。いやいやいやいやいや、事実だろ。逃げてんじゃねえよ死ね。うるせえお前が死ね。いやいやいやいやいやいやいや、いやいやいやいやいやいやいやいや――
「……落ち着けよ、俺」
 混乱していた。
 ずっとだ。智幸と別れてからずっと非生産的な思考が空回りして、糸の乱れたリールみたいにぐちゃぐちゃになっている。
 目を閉じて智幸の姿を浮かべれば、淡い桜色の口紅でめかした端正な顔が真っ先に浮かぶ。デートのときの智幸の服装も、可愛らしく彩られた部屋も、それらを考えたら本当の自分は女の子、だからそうありたいという意志の表れはわかる、けど……。
 なにかあいつに関して少しでも知れればと、今日はバイトがなかったからこうして専門書を読んでいるが、だんだんまどろんで文字が頭に入ってこなくなる。寝不足のせいか、それとも現実をまだ受け止められない俺の狭量のせいか。
 ポケットに手を突っ込むと硬い感触が指先を触れた。
 携帯電話。智幸が選んでくれた最新機種。
 表示された番号をタッチすれば智幸に電話がかかる。
 たったそれだけのことが、できない。
 あいつとの向き合い方がわからない。
 智幸への気持ち、胸の奥の奥にくすぶらせているモノは、あるにはある。
 けれど、智幸の真実を受けて盤面が揺らぎ、オセロの白黒がひっきりなしに変わるように落ち着かない。
 俺はあいつのどの部分に惹かれたことになる?
 俺が想うのは?
 あいつの、あいつのどこを――
「…………」
 智幸に対しての心の置き所が見えない。抱いた気持ちはあるのに、着地点が見えない。
「……どうすりゃいいんだ」
 そう、呟くしかできない。
 そのときだった。カツカツとヒールを鳴らす音が聞こえた。静寂な図書館にやけに響いていたが、ふと鳴り止んで背後に人の気配を感じた。
 気になって振り向くと――
「あ」
「あ」
 ちょっと驚いたように声を漏らしたのは俺と、彼女だ。
 透き通るような肌色の美脚を見せつけるかのような、大胆なホットパンツ。砂金を振りまくかのような派手な金髪。一目見れば忘れないほどの美人。目の前にいたのは一部メディア学科所属――鈴木果歩だった。
「あれ、あなた確かぁ、えっとぉ……?」
 一方で鈴木果歩はうーんと指先を頭に当てて考え込む。やがて思い出したのか目を電球のように光らせた。
「あ、思い出したぁ! 学生プロレスのレスラーさんだ!」
「違えよ。どっから学生プロレスでてきた」
「じゃあ、学生プロレスのレフリーさん?」
「学生プロレスにこだわりすぎだ! 俺は三浦九。君島智幸と一緒のゼミの」
「あっ! そうだそうだ思い出した! ごっめーん。果歩、あんまり興味ないとすぐ忘れちゃうから」
 こいつ、いまさらりと俺のこと興味ないって言ったよな。
 やっぱりこの手のタイプは苦手だ。なにかとペースを乱されて調子が狂う。
「謝るからむっとしないで。ごめんごめん。ちょっと前に智幸と一緒にご飯してた二部の人だよねー。こんなところで会うなんて偶然だぁ」
 完全に思い出したと鈴木果歩は手を叩いたが、その音がうるさくて通りがかった司書が「しっ」と人差し指を口に当てて注意する。一応ここは館内でも私語ありのスペースだけど、鈴木果歩は度が過ぎていた。
 鈴木果歩がぺろっと舌を出して司書に頭を下げている。なにやってんだよ、この人は。
「あんた、図書館になにしにきたんだよ」
「え、課題の資料集めだよー。締め切りはまだ先だけど、早め早めにやっておかないとあとで大変だからぁ」
 注意されて反省したのか口に手を当てて囁く。やたら彼女の顔が近い。鉛筆でも乗せられそうなつけ睫毛が目につく。
「キミも課題? なにを調べてるのー」
 鈴木果歩は机に散らばった図書のタイトルに視線を送って、整った細眉をぴくりとつり上げた。アイメイクでぱっちり開いた目をさらに大きく開いて俺の顔を一瞥、そして再び図書を見つめた。
 少しの沈黙のあと――なにか察したように妖しく笑った。
「そういうこと」
 鈴木果歩がわざわざ隣のイスを引いて座った。まるで俺に興味を抱いたように、ばっちりメイクした小顔をこちらに向けてくる。
「――智幸のこと、気づいてなかったんだ」
 ドキリとした。心臓が胸骨を突き破っていきそうだった。
 雲の上を歩くようなほわほわとした人だと思っていた鈴木果歩が、察しのいい一面を持ち合わせて驚いた。
 この人は智幸の事情を知っている? いや、昨年度一緒のゼミなら知っていてもおかしくないのか。
「なんで、俺が智幸のこと気づいたってわかるんだ……」
「別に勘がいいとかじゃないよー。果歩もぉ、気づいたとき似たようなことしたから」
 鈴木果歩も同じことをした? この人が俺と同じ?
 意外だ。唯我独尊とはいかないまでも、自分のペースで何事も進めそうな気質の鈴木果歩が他人を気にかけた?
 興味を持ったからか?
 智幸の事情を聞けば気にはなると思うが、鈴木果歩は他人に目を向ける人間とは思っていなかったのに……。
 それとも去年、注意を引くような事件でも起きたのだろうか。
「昨年度、智幸になにかあったのか……?」
 不安げに聞くが、鈴木果歩は鮮やかに塗られたマネキュアに息をかけながら平然としていた。
「別にー。特別ななにかがあったわけじゃないよ。まあ、智幸の事情を知ったからといってフツーといえばフツー。なんだけど……」
 黄金の髪をかき上げるとやや神妙な面持ちの鈴木果歩の横顔がのぞいた。
「騙されてたってのは違うんだろうけど、全員じゃないけど、そういう事情知らない人たちはすっかり女の子だと思っていたからびっくりはしたよ」
「智幸みずから打ち明けたのか?」
「んー、というよりぃ、仕方なくって感じ。基本全員参加のゼミ合宿になぜか智幸キョヒって、なんでなんでってみんな執拗に聞いたからなんだよね。そこでしぶしぶ教えてくれたってわけ。まあ、それ聞いたからって大きな変化があったわけじゃないよ。ホント、フツー。けど、ちょっとねー。フツーなんだけど、ほら、フツーにしようという気持ちがなんかフツーじゃないっていうか、構えてるってことじゃん。智幸も智幸でそれからより距離を取るようになった感じ。果歩はぁ、あんま気にしてなかったけどー」
 面白くない話だと思ったのか、鈴木果歩はそこで言葉打ち切ってマネキュアの色合いをうっとり眺めはじめる。
 鈴木果歩の話を聞きながら、俺は以前智幸から聞いた言葉をぼんやりと思い出していた。
 ――時々、大学辞めて帰ろうかなって気持ちが揺らぐんだけどね。
 昨年度の智幸は自分の事情を明かして、大学に通うことにイスとイスの狭間に座っているような居心地の悪さみたいなものがあったのだろうか。
 転部の一番の理由は経済的な事情のような感じで話していた。それは間違いないのだろうが、親に援助を打ち切られてぐらぐら揺れているときに、ちょっとした、でも気持ちにちくりと刺さる人間関係だって、転部の割合を占めていたんじゃないだろうか。
 鈴木果歩は気にしてないというが、ほかの一部の連中はフツーを装いながらもどこかでどう向き合えばいいのか探っていたのだろうか。
 俺は?
 ふいに降ってきた疑問。俺の場合は智幸とどう向き合う?
 ほかの連中とは違う。ただのゼミ友達という範疇を超えて違う場所に向かおうとした俺はどうすればいいんだ?
「キミさ」
 鈴木果歩が頬杖をついてこちらをじっと見据えた。目元が寝不足で黒ずみ、満足に食事をとらずやつれた俺の顔を凝視して言った。
「――がっかりしたのかな」
 胸を撃たれたかのようなショックが全身を貫いた。
「ち、違っ……! 俺はっ」
「でもフツーじゃん、それ」
 たとえ取り繕いだと責められても、それは、それだけは智幸に失礼に当たると反論しようとしたのに、鈴木果歩は率直で飾りげなく、平然と諭すようだった。
「果歩にはね、すっごく素敵な彼氏がいるの」
「は? 彼氏?」
 いきなり話が飛んだ。突拍子のなさに戸惑う。
「背が高くてぇ、スタイル抜群で、小栗旬にチョー似てるイケメンなの! だれが見てもカッコイイカッコイイって言うほど!」
「はあ」
「果歩とデートするときなんてぇ、いちいち新しい服買って、モデルが通うような美容院で髪切ってもらうんだって。『オレは彼氏として果歩とつり合いたい』そんなこと言って気合い入りまくり。チョー可愛いでしょ!」
「あの、えっと、ノロケ話……?」
「しかもチョー優しいんだよ。誕生日には果歩が好きなスヌーピーのオルゴール買ってくれたの! うふふっ。いい歳した男がひとりでスヌーピーショップうろうろ歩き回って悩んで買ったんだって。やぁんもう、想像しただけですっごく好き! 顔がよくてぇ、果歩の好きなモノを真剣に悩んでプレゼントしてくれてぇ、しかもいまから結婚資金貯めるとか意気込んじゃってるの。照れちゃうなぁ、うふふっ」
「えっと鈴木さん! もうノロケ話はわかったから! 俺たちが話してしたのそういうことじゃなくてっ」
「――果歩が好きなのって外見もなんだよ」
 装飾も欺瞞もなく、鈴木果歩はそう言い切った。
「外見とかー、見栄えとかー、もっと言えば手に触れられる部分とかー、そういうの重要視するのって、特別じゃないことでしょ。フツーにカッコイイ彼氏友達に見せたいし、ほかにも、いろいろあるじゃん。だからもし、もしだけど、果歩の彼氏の体が彼じゃないと知ったら……やっぱり果歩だってがっかりすると思うよ」
 つい、黙ってしまった。
 なんて言葉を返せばいいのかわからなかった。
 ガイケン、カオ、カラダ――視界に映るモノは愛おしい。そう鈴木果歩は言いきっているのだ。
 それが正しいかどうかはわからないが、暗い森で彷徨っている俺とは違って鈴木果歩の双眸に迷いはなかった。
「だから、フツーなんじゃない」
 鈴木果歩の声がやけに頭に響いた。
「がっかりしたって気持ちがある人は、果歩はフツーなんだと思うよ」
 普通。
 なぜだ。あれほど望んでいたものなのに、いま普通という証明書を拾っていいと言われても、胸が苦しいだけだ。
「こんなことを平気で言っちゃうからダメなんだろうね」
 鈴木果歩は苦笑いしていた。
「こんな果歩だから智幸と仲良くなれなかったのかなぁー」
 どこか物憂げの鈴木果歩は、皮肉ではなく本当に残念がっているように見えた。
 お互い、しばらく無言が続いた。
 どこからか図書のページをめくる乾いた音が聞こえた、そのときだった。
「――それでも好きでいられるかな」
 不意に漏らした鈴木果歩の言葉に、なにか突きつけられているように感じて俺はびくりとなった。
 だけど、鈴木果歩は図書館の天井をぼんやりと見上げ、そのセリフは俺個人に向けられただけでなく、智幸の事情を鈴木果歩自身の場合に当てはめて自問しているようにも見えるし、世界のどこかにいるだれかに投げかけているようにも思えた。
 しばらく鈴木果歩は考え込むように天井を眺めてから、言った。
「果歩ね、智幸に感心したことがあるんだー」
「感心?」
「綺麗でしょ、智幸。ホント綺麗。智幸さ、クリームなに使ってるか知ってる? 前にちょっと聞いたんだけど、ドゥラメールだよ、ドゥラメール! もーめっちゃ高いんだよ! 果歩だって使いたいよぉ! あれ、わかってない……? 果歩の言ってること理解できる? わかんないの!? もうこれだから男の子は!?」
 ぐっと拳を握ってまくしたてるように語る鈴木果歩。よくわからいないがその勢いに気圧されて俺は「お、おう……」としか反応できない。
「あの子、肌の気遣いハンパないって見てればわかるからね! それで果歩、感心したもん。それにくらべてさぁ、ときどきキャンパスにもいるんだよねぇ、ろくに化粧もしてない女―。忙しいって言うならせめて眉の処理ぐらいしといてよって話だよ。あいつら女捨ててるでしょ。そういうズボラな子と智幸を比較したら、いや比較とかじゃなくて、私がもう感心しちゃってるなら――」
 言いながら「あれ」と自分自身で疑問を抱きながらも、なにかおぼろげな答えを掴んだかのような顔をした。
「果歩にとって、それって――」
 声のつまみを回して大きなボリュームで話していた鈴木果歩に、司書が鬼みたいな形相で睨みをきかせる。「ご、ごめんなさーい」なんて鈴木果歩がぺこぺこと頭を下げていた。
 俺は、鈴木果歩の言葉の意味を考えていた。
 目に見える世界に注視するというのは極端なんだろうけど、でも、だからこそ見えるものがあるのだろうか。
 以前食堂で智幸と鈴木果歩が鉢合わせたシーンを思い出した。映像に出演するヒロインとして服装が似合うかどうか聞く鈴木果歩。見える世界を悪く捉えて、一面的にカメラを固定してしまえば、あのシーンは自分の美貌を見せつけている意地悪な場面に映るかもしれない。
 けれど見方を変えれば――鈴木果歩は智幸を自分と同じ友達だと見ていたから、だからああやって近寄ったとも見えなくないだろうか。
 ほら、よくあるじゃないか。女の子同士服を買いに行って、この服似合ってるとか、似合ってないとか、仲良さげにじゃれあう光景。
 目に見える世界なんて見えて当然、知ってて普通。そうやって俺はどっかで軽んじていなかったか?
 さっき鈴木果歩と出会ったとき、鈴木果歩は他人を気にする気質じゃないとか勝手に測っていなかったか? 鈴木果歩の生い立ちも、学生生活も、人柄だってたいして知らないくせに。
 俺ははき違えていたんじゃないか。視野を固定して、勝手にそいつのすべて見た気になって、そいつの一面だけですべて判断していなかったか?
 いままであらゆることを、ちゃんと見ようとしてこなかったんじゃないか?
 連鎖的に思い出したのは、阿藤との食堂でのやりとりだった。
 いまでも阿藤の物言いは嫌気が差すし、ヘラヘラした態度も好きにはなれない。仲良くなる気なんてさらさらない。でも、一歩後ろに引いて、視野をワイドにすればまた違った光景が見えるのだろうか? 第三者の立場に立てば、ただ声をかけただけって見方になる? じゃあなんだ。俺が馬鹿にされていると感じたのは?
 ひょっとしたら俺を馬鹿にしてんのは――
「あーあ、司書さんに目つけられちゃった。果歩、ここにいるとそのうち司書さんにつまみ出されちゃうからもう行くね」
 鈴木果歩はイスから立ち上がって、
「それでも、好きでいられるのかな」
 ぼんやりとさっきのセリフをもう一度繰り返していた。自分に問いかけているのか、他人に問いかけているのか、よくわからない感じで。

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