スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←20話 これはデートか見返りか?3 →22話 これからのこと
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【20話 これはデートか見返りか?3】へ
  • 【22話 これからのこと】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

青春アメとミエナイ彼女

21話 ミエナイ彼女

 ←20話 これはデートか見返りか?3 →22話 これからのこと
「あのときはびっくりしたよ。本当にいきなりだったから。……でも、でもね、それ以上に嬉しかった」
 予感があった。智幸がこれから話すことはあの日の続きだと。俺の告白を受けての返答だと。
「可愛いって、一目惚れしたみたいって、そう言ってくれたこと嬉しかった。ホントは私、肩幅とか結構広いし、服装だって心の中じゃ似合ってないんじゃないかってビクビクしてて……。だから、だからね、たとえ見た目だけでも、嘘だったとしても、可愛いって思われて嬉しかったんだ。本当だよ。君の前では冷静でいたけど、もう心の中は舞い上がちゃってさ、帰ったあとベッドにうずくまってジタバタしてたんだ」
「君島……」
「食堂でメインヒロインって言ってくれたときなんて、私のことちゃんと認められたみたいで心が躍ってたんだ。今日なんてスカート可愛いって言ってくれて、さっきは一度別れたはずなのに君が戻ってきて……夢見てるみたいだと思ったよ」
 じゃあどうしてさっき俺についてくるのかどうか葛藤する必要があったんだ。迷う必要なんてないじゃないか。
「でも、でもね。君は、君のために私は……やっぱり、こんな、こんな私じゃダメなんだ」
 胸が痛むのか手を当ててうな垂れる智幸。
「私は……君にまだちゃんと話してないことがあるんだ」
「話してないこと?」
「ねえ、世界構成に必要な人の最小単位って何人か知ってる?」
 いきなり話が飛躍した。突拍子もないセリフに俺はなにも答えられず立ち尽くしてるだけだった。
「二人だよ。ある授業で言ってたんだ。自分と、もうひとり。その他人が自分を観測して、自分が他人を観測して、はじめて世界が成り立つんだって。つまり、自分を確立するのに必要なのは自分じゃなくて他人なんだって。自分で自分をいくら定義してもダメなんだって」
 そこまで聞いても俺にはまだ智幸の気持ちすべてを理解するに到れなかった。奇妙な不安感だけがぞわぞわと足元から這い上がってくる。
「そんな哲学的で小難しい真理は知らない。自分は自分。私はそう思ってるよ。思ってるけど、他人はそう見ないかもしれない」
 智幸の声は渇いていて温度が感じられなかった。今日一日過ごしてきたひだまりみたいな時間までも暗い影が差すようだった。
「……嘘ついてるわけじゃなかったんだ。騙してるつもりだってないよ。私は、私だから」
 ざわざわと胸騒ぎが強くなっていく。
 おかしい。手の届くところに智幸がいるのに、なぜだかどんどん距離が離れている。エスカレーターの流れに逆行しているみたいに、進んでも進んでも距離が埋まっていかない。
 焦った。智幸がいつか声の届かない世界に行ってしまいそうで。
「怖かったんだ。本当のこと話すの、怖かったんだ。君に失望されたくなくて。君が離れれば、私は……。私だって、本当は私だって、君を――」
 智幸は顔を上げて、でも、それでも、続きの言葉をぐっと飲み込んだ。痛みに耐えているみたいに歯を食いしばっていた。まるでそれを口にすれば罪になるとでも言わんばかりに。
 だったら、俺が。
「君島、俺は――」
「三浦くん」
「君島! 聞いてくれ! 俺はお前を――」
「ありがとう」
 息が、詰まった。
 呼吸を、忘れた。
 ――智幸が上を向いていた。
「ごめんね」
 ぽつりと、肌に落ちた滴。
 冷たそうな水滴が、生ぬるい匂いとともに降りはじめた。
 雨だった。
 無論、展望台は屋内で、そもそも窓ガラスの向こうにある池袋にだって雨なんて降っていない。
 たったひとり、心の世界に降りしきる雨。
 雨粒に濡らされたのは、俺ではない。
 ――智幸だ。
 俺には確かに見えた。灰色の分厚い雲に覆われた世界で、智幸にだけ降りしきる冷たい五月雨が。
「……シンデレラみたいに浮ついて、なに調子に乗ってるんだろうね、私」
 スカートをくしゃりと掴んで智幸が見せた表情は、不格好な微笑みだった。統一感の取れてない福笑いみたいな、切って張ったような微笑。
「――私は普通じゃないんだ」
 ざあざあと雨脚が強くなっていく。全身を打ちつけるような雨に、それでも智幸はやはり微笑みを装った。
「たぶんね、神様にイタズラされちゃったんだと思う」
 銃弾のように激しく降り注ぐ雨粒。どんどん笑顔のメッキがはがれてひび割れていく。無理して明るさを口元にぶら下げているのが明らかで、見ているこっちの胸がズキズキと痛んだ。
「私がいままで言ってきたことは、決して嘘じゃないよ」
 胸を、その奥の奥にある人間しか持ちえない部分をぽんと叩いた。
「でもね」
 声が掠れていた。
「……でも、ね」
 胸に置いていた手を、ゆっくりと、かすかに震わせながら、自分の頬へと触れた。
「こんなカラダじゃダメなんだ。人並みの恋愛なんて望めないんだ。この頬も、口も、目も、鼻も、耳も、手も、足も、このカラダは――」
 泣き笑いのような表情で、智幸は打ち明けた。
「男の子なんだ。カラダだけが、男の子なんだよ」

関連記事
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【20話 これはデートか見返りか?3】へ
  • 【22話 これからのこと】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit
  • 【20話 これはデートか見返りか?3】へ
  • 【22話 これからのこと】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。