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 ←19話 これはデートか見返りか?2 →21話 ミエナイ彼女
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青春アメとミエナイ彼女

20話 これはデートか見返りか?3

 ←19話 これはデートか見返りか?2 →21話 ミエナイ彼女


「ストーリーが頭に入らなかったよ」
 上映終了後。智幸も俺と同じ気持ちを抱いていたのかと思ってドキリとした。
「4DXの座席効果すごかったんだもん。本物の煙がぶわーって噴出して、シートはぐらぐら揺れちゃって! ああ、楽しかったなぁ。ストーリーに集中できなかったけど満足だ」
 ……なるほど、そういうことか。
「でも、元々ストーリー性は薄いよね。わかりやすい勧善懲悪ものだったし。けどウリは脚本じゃなくてVFXの技術だね。あんな複雑なメカの変形を丁寧にCG処理できちゃうなんてすごい。CG技術じゃやっぱり邦画は太刀打ちできないのかなぁ」
 シアターから出て歌うように感想を口にする智幸。人差し指を指揮棒のように振って映画のポイントをまとめる仕草は上機嫌そのもの。グッズ売り場でパンフレットも買って満足そうな顔をしている。
「男の子のツボをついている作品だったよね。破壊と爆発、そして変形。もう戦闘シーンで爆発多すぎて世界救ってるんだか破壊してるんだか」
 パンフレットを開きながら監督のインタビューにうんうんと頷いて感心している。このまま放って置いてもあと三十分は感想を述べていそうだ。
 恋愛映画じゃなくても楽しんでくれたみたいでそれはよかったのだが、俺の意識は別のところに向いていた。
 映画の終わりはすなわち、見返りを果たしたことと同義だった。
 気づけば映画館の出入り口。楽しい時間の終わりを前に、俺は一度手前で足を止めたが、立ち止まっていても仕方なかった。
 夢と現実の境界線をまたぐように自動ドアをくぐって外に出た。
 暮れなずんだ池袋の色合い。空は藍色から闇色へとグラデーションしていた。
 夜の闇に負けないようにと池袋の街が発光する。チカチカと目に刺さるような電飾があちらこちらで輝いていた。
「――で、どうだった?」
 急に智幸の声がよく聞こえた。遠くに飛んでいた意識が現実に戻る。
「あ、悪い。ぼうっとしてた。なんだっけ?」
「もうっ。なんでちゃんと人の話を聞いてないのかな。4DX楽しめたかなって聞いたんだけど」
「ああ、そりゃもちろん楽しかったよ。ありがとな、君島」
「よかった。見返り、これでちゃんと返せたね」
 貸し借りゼロ。智幸の言い方は区切りをつけて線引きし、距離を取ったように聞こえた。
 そこでぷつりと会話が途切れた。
 こういうとき、どう声をかければいいかうまい言葉が見つからなかった。
 映画観の前に立ったまま、互いに言葉を失くしたように佇む。街の電子音や行き交う人々の足音が耳に響く。互いに立っている間には空白があって、街灯に照らされて伸びた影が重なることはない。
 今日、智幸と過ごしてきた時間は借りた分を返すだけ。
 そうだ。最初からわかっていたじゃないか。だからこれ以上一緒に時間を過ごす必要はない。
「終わり、だね」
 やがて、絞り出すように智幸が呟いた。
 しばらく地面に根を生やしたように不動だった智幸が、駅へと戻る人波に流されるように、靴底をコンクリから引っぺがして足先を帰途へ向けた。
 智幸の歩調は行きとくらべて時間を使うようにゆったりとしていたが、途中で絶対に歩みを止めることはなく、その両足が止まったのは改札前だった。
「私、こっちの路線だから」
 くるんとスカートをはためかせてこちらに振り向く。楽しさと寂しさと、満足と不満足と、どっちつかずの中間にいるような微笑だった。
「ここで、お別れだね」
 智幸の声は駅構内の雑踏に飲まれそうだった。
 すぐ隣にある改札はこれまで見えなかった一線の暗喩みたいに見えて、くぐってしまえばもう二度と会えない気すら起こさせた。
「久しぶりにだれかと過ごした休日だったよ。4DX、観れて楽しかった」
 目線を落とすが、それは一瞬。すぐに手を肩口まで上げた。
「また、ゼミで。……バイバイ」
 別れの合図を切り出された俺は、
「ああ、またな」
 そう、返事することしかできなかった。
 俺は踵を返した。後ろ髪を引かれそうになりながらも視界から智幸を消した。
 今日の智幸との時間は見返りだ。だからここで別れるのは当然で正しい。向こうだってそれを承知しているから別れを切り出したんだ。
 なに、十分じゃないか。携帯を契約して映画観て充実した一日だったろ。満足、満足だろ。
 これ以上の時間を求めることはまた違った意味合いを持ってしまう。だから俺はみずから離れるように一歩踏み出した。

 ――後悔したくなかったら自分の気持ちに嘘ついちゃダメだよ。

 立ち止まった。
 海のセリフが強烈に響いて俺の両足を縛りつけた。
 足が帰ろうと一歩を踏み出せない。体が心に対して満足なんて嘘っぱちだと見抜いていた。
 抑圧していた感情がまるでバネのように跳ね上がって全身を突き動かし、ジャケットを翻して智幸へと振り返る、その刹那で思う。もう遅いと。きっと智幸は改札をくぐってしまっている。越えられない改札、彼女との埋まらない距離。そして彼女の耽美な亜麻色の髪は有象無象の群集にのまれて見つけられないと。
 ――けど、いた。
 智幸は佇んでいた。まるで俺の背中が消えるまで見送るように。
 地面を強く蹴り上げた。コンマ数秒でも早く、智幸との距離を埋まるように。
「あのさ!」
 別れたはずの俺が目の前に戻ってきて智幸はきょとんと目を丸めていた。だけど俺は気にせず、マグマのように湧き上がってくる気持ちをぶつけた。
「連れて行きたいところがあって、その、それは、サンシャイン60の展望台に一緒に行きたいんだ。だから、ちょっとのあいだ……付き合ってほしい」
 ときどき声を上擦りながらも、なんとか言えた。
「えっと、あの、えと」
 あわあわと口をまごつかせる智幸。突然の提案に脳の処理が追いつかないのか、視線があちこちに飛ぶ。うつむいて、顔を上げて、うっすらと赤らんだ顔でまたうつむいて。かしかし、と横髪を掻く。
「い、嫌なのか!?」
 これで「嫌だ」と断られたら地面に頭打ちつけて死んでやろうと思ったが、智幸はぶんぶんと髪を乱すほど首を横に振った。
「ち、違うっ。そういうわけじゃ……」
「じゃあなんだ!? 高所恐怖症か?」
「ばっ、バッカじゃないかな! そんな子どもみたいな理由じゃないよ! その、実は、私……」
 智幸はうっすらと赤らんだ頬に手を当てる。
「こんなにたくさん、二人きりで異性と過ごしたことなんて、なかったから、その、だから、どうすればいいのかわからなくて……」
 最初は単にはにかんでいるだけかと思ったが、やがて困り果て、揺れて、最後に智幸はどこか哀しそうにうつむく。敷いた一線を越えるかどうか、外側と内側の境界線上に立って葛藤しているように見えた。
「このまま終わるのは、なんか、物足りないって思ったんだ」内側へと手を引くように言った。「なんつーか……楽しかったからさ」
 いろんな言葉が浮かんだがどれも着飾ったように嘘っぽくて、率直に言ってしまった。
「ほら、行こうぜ」
 俺が再び池袋の街へと足を出すと――智幸はついてきてくれた。彼女の顔を直視するのは気恥ずかしくてできないが、彼女との時間がまだ終わらないことに胸をくすぐられるような心地だった。
 雑居ビルの区画を抜けて視界が開けると城のようにでんと構えたサンシャイン60が現われ、ビルの中に入ってそのまま高層行きのエレベーターに乗る。エレベーター内に表示された移動速度は加速度的に増していき、すぐに六十階の展望台へと到着した。
 受付で入場券を買って俺と智幸は展望台内へと踏み入れた。
 瞬間――ぐわっと視界がワイドに広がった。
 高さ二三〇メートルの世界が、そこにあった。
「わぁ!」
 胸の前で手を合わせて感嘆する智幸。テテテ、と一目散にガラス窓に近寄ってのぞきこむように夜と光の世界を眺める。
 俺も息をのんだ。圧巻だった。
 光が洪水みたいに溢れている。車のライトが大動脈みたいに流れて、池袋の街そのものが生きているみたいだった。
「あ、あっちが駅の方面なんだ。映画館はサンシャイン通りだから向こうかな。あそこらへんはさっきまで一緒に歩いていたところだよね。わぁ、綺麗……素敵だなぁ」
 さっきまでの戸惑いはどこにいったのか、智幸はうっとりとした目つきで池袋の街を指でなぞる。今日過ごしてきた時間を思い出すかのように。
「君島はサンシャインの展望台って来るのはじめて?」
「はじめてだよ。夜景が綺麗ってのは聞いていたから行ってみたかったんだけど、なかなか機会がなかったんだよ。だって――」
 くるりと亜麻色の髪をなびかせながらこちらに振り返って照れくさそうに笑った。
「ひとりじゃ、なかなかこういう雰囲気のところって来れないでしょ」
 サンシャインの展望台は海の入れ知恵だった。もし時間に余裕があったら行ってみてはどうかと。
「わぁ、こっちの方角はスカイツリーが見えるんだ。綺麗だなぁ、すっごく綺麗……」
 池袋の燦然とした光に照らされる智幸の横顔。陶酔する彼女の表情は妖しい魅力があって、俺の意識は夜景よりそちらに向いた。
「ねえ、見て。ほら、綺麗だよ」
 俺に教えるよう夜景のポイントを指差す智幸。うっすらとガラス窓に映る俺たち。どちらからというわけでもなく、肩が触れあいそうな距離まで近づいていた。
 右の手のひらに残った彼女の感触。映画館での出来事を思い出して、鼓動が全身を震わせるぐらい強く脈を打った。浮足立つような高揚感に空すら飛べそうだと錯覚しそうになる。
「綺麗な夜景。君もそう思うでしょ?」
 同意を求めるような、無邪気な笑顔。漆黒の夜と無数の光に濡れる池袋の街を背負った智幸は映画のワンシーンのように映えていた。
 視線は彼女に奪われて、意識はその心に釘付けになって、このままずっと時間が止まっても俺は神を恨まないだろう。
 胸が締め付けられるような、でも角砂糖を舐めるような、甘さと苦しさが同居する感覚の正体に、俺はもう気づいていた。
 なにも難しい話じゃなかった。
 いまさらごまかす必要もなかった。
 白状していい。
 ――俺は君島智幸が好きなのだ。
 そう認めた瞬間、オセロの白と黒がひっくり返るように、俺の心象世界はがらりと変わった。これまで保留して曖昧なままだった感情の色合いがくっきりと一色に染まっていく。
 大学の屋上での出来事。告白紛いと濁してきた言葉は間違いだった。あの気持ちは本物で、もはや紛いではない。いまなら言える、告白だと。
 智幸が風邪で寝込んで倒れたとき、家に訪れたのは心配だからだ。憔悴してやつれた頬を見て、好きな人のためになにか尽くしてやりたいと思ったのだ。
 映画館までの時間は確かに見返りだったかもしれない。しかしもう見返りの時間は終わっている。貸しとか借りとか打算や口実のいらない時間。いまここで智幸と同じ空気を吸って、同じ景色を見ているこの時は――デートなんだ。
 動揺はなかった。
 ぼやけていた感情の輪郭がくっきりと縁取られ、心はやけに落ち着いていた。
「君島」
 襟を正す。
 ふわりと智幸はショートの髪を浮かせて、こちらに振り向く。
「君島」
 二度、彼女の名前を呼ぶ。
 ただ名前を読んでいるだけなのに、胸の中で溢れた気持ちが声に帯びて、滲んで、智幸に伝わっている気がした。
 胸の奥から激しい欲がこみ上げてくる。一歩、二歩と彼女の内側へと近づく。
 周囲にはだれもいない。心を酔わすような壮大な夜景だけが広がっている。
 ついてきてくれた。こうして俺の誘いに乗ってくれた。偶然とはいえ手だって握れた。性急かもしれないと思う反面、今日一日の時間を思い出して、いいんじゃないかと自分自身に言い聞かせた。
 後悔したくない。
 この機会を逃したら後悔すると思った。
 作法も礼儀も詳しくはなかったけど自然とうまくいく気がした。だからゆっくりと彼女の肩に手で触れた。
 俺の内にあるもの、俺がこれから求めようとすること、それらを智幸は直感的に察して頬を強張らせた。睫毛も唇も、髪の毛なんて一本も揺れずに固まっている。硬直したなかで唯一、視線だけが焦点を定まらず揺れていた。
 怯えたように智幸は顔を伏せた。
 智幸の反応は嫌がっているのかと思ったが、俺の心の声を聞いたみたいに小さく頭を振った。
「違う。違うの」
「……君島?」
「これ以上は、私じゃなくて……君が嫌になるから」
 意味がわからなかった。智幸じゃなくて俺が嫌になる?
「――そっか。大学の屋上で君が言ってくれたこと、やっぱり本気でいてくれたんだ」
 その一言で、凍りついて停止していた時計の針が動き出した。
 ずっと一時停止されたシーンに再びカメラが回りはじめる。途中で止まったままのカットの続きが、唐突にカチンコが鳴って再開される。
〝特別な時間〟が幕を開ける音がした。

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