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青春アメとミエナイ彼女

19話 これはデートか見返りか?2

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 上映時間が迫ってきたので俺たちはスタバを出た。
 映画館のあるサンシャイン通りは賑わっていた。休日のせいで混雑していて、初詣を思い出すほど人だらけだ。
「うわー、サンシャイン通りってこんなに人いたっけ」
 人混みのなかを進みながら、智幸は辺りを見渡して再確認するような口ぶりだったので、ちょっと気になって俺は聞いた。
「君島は池袋とか遊びに来ないのか?」
「二部に来てからはバイトばっかりで来なくなっちゃったな。君は?」
「同じ。ゼミの飲み会とかで何度か来たことはあるけど、暇なときは基本バイト。こうやって二人きりで遊ぶってことがあんまりなかったからいままで仕事してた」
「ヤマト男子だね」
「馬鹿にしてんのか」
「してないよ。悪くないじゃん、ヤマト男子。モテそうでさ」
「は? モテる?」
「ほら、ちょっと前にネットで話題になったの知らない? 佐河男子とヤマト男子って。女の子からしたら重そうな荷物をひょいひょいって運んじゃう姿……その、カッコイイと思うよ」
 寝耳に水だった。作業着で荷物運んで姿がモテるだって?
 まさかと思う。夏場なんて汗まみれでむしろ敬遠されるんじゃないかと不安なのに。
 でも、そういえば職場で配達先の女の子と連絡先交換してそのまま結婚した人がいるって聞いたことはあるな。異性から見たら作業着で荷物運ぶ姿はいい印象として映るのだろうか。
「あ、映画館ってあそこでしょ」
 智幸の目線の先にあったのは建物の壁面に張りつけられた巨大な映画広告。
 俺たちは通りから曲がって映画館内の自動ドアをくぐる。さきほどまで混雑していたのが嘘のような静かなホール。通路には上映作品のポスターが張られていて智幸は俺に聞いた。
「4DXで観れる映画のタイトルってどれだっけ?」
「『トランス・フォーミング・パラダイスロスト』ってSFロボットバトル映画。ネットで事前に調べたんだけど、いま上映している4DX作品ってそれしかないんだよ」
 地球外生命体『バグワイズ』が地球に侵攻を開始。これに対して人類は古代文明の遺産である自意識を持った乗り物『トランス』を発掘する。トランスは乗り物から戦闘ロボットに変形して、人類と共にバグワイズと戦う――そんな内容の映画だ。
 4DXは体感型とあって、バトルシーンやアクション性が高い映画のみの公開なんだろう。
「ポスターはえっと、これだな」
 俺が指差すと智幸はふらりと、まるで夢遊病患者のような足取りで巨大ロボが描かれたポスターに近づいた。
「…………」
 細い指先でその映画のタイトルに触れていた。無言で、能面のように無表情で、ただじっと見つめている。
 いきなりぼうっとした智幸の様子に俺は戸惑った。さっきまで普通に話していたのに急にどうした?
「――あ」
 やっべ。もしかして智幸はこの映画にまったく興味がないんじゃないか。あいつが好きなのは恋愛モノ、なのにこれから観る映画はSFバトル……。
 やっちまった! と頭を抱えたくなった。いや、4DXでは恋愛モノはやってないとわかっていた。わかっていたのだが、まさかここまで淡泊な反応されるとは思っていなかったんだ。
「あ、えっと、君島、興味ないなら4DXじゃなくなるけど別のでもいいぞ」
「え? 別の?」
「いや、なんかポスター観てぼっとしてるから、ひょっとしてほかに観たいやつがあるのかなって」
「あ……ごめん! 別につまらなそうにしてるとかじゃないんだ。どんな内容なのかなーって考えてちょっとね。映画ならなんでも好きだから、私」
「いいのか?」
「いいもなにも、私だって4DX楽しみなんだよ。ほら、チケット買いに行こう。ぼやぼやしてると上映しちゃうよ」
 調子を取り戻した智幸の声は弾んでいた。無駄に明るく振舞っているようなわざとらしさは感じられない。無理している様子でもなかった。
 俺が気にかけすぎているだけか、とこれ以上言及せず、智幸は足早にチケット売り場に並んでチケット二枚を受付に頼んだ。
「六四〇〇円になります」
 高っ、と驚愕して思わず声が出そうになった。
 ひとり三二〇〇円。一般のチケットのおよそ二倍の料金設定。ひとり分ならまだしも、二人分払うとなるとかなり値が張っているように思える。こないだの食費はそこまでかからなかった。見返りにしてはバックが大きすぎる。
 間抜けだ、俺。値段を調べることをしていなかった。
 やっちまった! といまにも頭を壁にぶつけたくなる俺の横で、智幸は嫌な顔ひとつせずピンクの折り畳み財布から一万円を取り出していた。札に描かれた福澤諭吉先輩が「女の子に全部払わせるとか、ないわー」とドン引きしているように見えた。
「き、君島。やっぱり払う。俺も払うから割り勘にしよう!」
「え、ダメだよ。それじゃあこないだのこと、返したことにならないもん」
「いやでも、こないだの食材費はここまでかからなかったんだ」
「食材費だけじゃなくていろいろお世話になったから、これでプラマイゼロぐらいだよ」
「俺は大したことしてないって」
「もう、ぐじぐじうるさいな。後ろに人並んでるのにここで言い争いしていると詰まらせちゃうよ」
「だけど」
「これ、一万でお願いします」
 なにを言っても智幸は頑なに聞く耳を持たず、結局、智幸がその場を持った。
「すまん。マジで悪かった……。ちゃんと値段まで確認してなくて……」
「別にいいよ。今月はたくさんバイトしたからお金いっぱい貰ってるし。はいこれ、君の分のチケットと3Dメガネ。上映場所はシアター3だって。ほら、いつまでも申し訳なさそうな顔してると怒るよ。一番ヤだよ、楽しもうとしないのは」
「あ……ああ。わかった。すまん」俺は切り替えるように軽く両頬を叩いた。
 チケットをスタッフに手渡して劇場内に入るとすでに観客はちらほらいた。座席は五割ほど埋まっている。
 指定された座席は中央からやや前列で、スクリーン正面に構えた絶好の位置。智幸と並んで席に座ると、彼女は興味深そうに劇場内のあちこちに視線を送っている。
「へぇ、天井にいっぱいスピーカーついてる。シートの間隔も広くて快適だ。あ、前の席になんかある……噴出口かなこれ? いっぱい仕掛けがありそう! シート前後左右に動くんだよね。どんな感じなんだろ。気になるね、気になるよ!」
 子どもみたいに足をぱたぱた動かしてうきうき声を弾ませていたそのとき、「あ!」と智幸の目の色はプリズムに輝きだした。
 スクリーンに映画の宣伝が映し出されたからだ。
 全米観客動員数ナンバーワン、国際的な賞を総なめにした、そんな謳い文句から入り、次のカットでいきなりド派手なカーアクションが展開。広大な荒野をスポーツカーが土煙を巻き起こしながら突っ走って最後は崖から飛ぶ。おいしいとこどりのカットの連続に智幸はうっとりした目つきで眺めていた。
「わぁ、やっぱり映画館はいいなぁ!」
 映画本編がまだはじまってないのに興奮は最高潮。ひょっとしたらこいつ、本編観なくても宣伝だけで満足できるんじゃないか。そう思ったらなんだかおかしくてちょっと笑った。
 宣伝ムービーが一通り終わると照明が落ちてシアター内が真っ暗闇に包まれる。
 いよいよ本編がはじまるかと思ったら4DXの説明ムービーだった。なるほど、4DXの座席効果を前もって味わってみようというデモンストレーションだ。
 正直、4DXをなめてかかっている節はあった。シートが揺れるといってもどうせ子ども騙し程度だろう。
 だから最初、揺れの衝撃に耐えられず俺の体は盛大にくの字に曲がった。
「……っ!?」
 危ねっ! バランス崩してシートから落ちそうだったぞいま。浅く座ってたらこれ振り落とされてもおかしくない。
 縦揺れ。横揺れ。ミキサーの中でかき回されているんじゃないかと思うぐらいよく揺れる。座席に「座っている」のではなく「乗っている」という感覚。まさにアトラクション。結構本格的じゃないか。
「ひゃん!」
 智幸なんて声を上げていた。……なんつー可愛らしい声を。
 その後もぐらぐらとシートは揺れ続け、落ち着いたところで説明ムービーが終わった。
 俺は小声で隣に座っている智幸に話しかける。
「おい、大丈夫か? 酔ってないか?」
「へ、平気だよ。ぜんぜん、平気っ」
「本当かよ。声出して驚いてただろお前」
「わ、私じゃない! 私じゃないよ!」
 絶対にこいつだ。
「4DXの座席効果ってシートが揺れるだけじゃないんだよね……?」
「まだまだ仕掛けはたくさんあるぞ。平気か?」
「へ、平気だよ! 子ども扱いしないで。ちょっと最初びっくりしちゃっただけ。もう平気。こんなの慣れちゃえばなんてことないよっ」
 ぐっと胸の前で手を握って意気込む智幸。
 そして、スクリーンに映し出された映画本編。
 都市ひとつ覆うほど巨大戦艦が襲来し、ビーム砲による波状攻撃をしかけ蹂躙していくシーンからはじまった。
 悪の侵略者『バグワイズ』対、正義の守護者『トランス』。ストーリーはシンプルな勧善懲悪ものだろう。
 肝心の4DXはというと、シーンと連動していた。平和的なシーンに座席効果は特にないのだが、ひとたび戦闘シーンになると真価が発揮される。
 ――映画の世界の爆発と同時に劇場内でリアルに煙が発生、もくもくと立ちこめスクリーンを覆う。
 ――都市が敵の侵略によって焼き払われるシーンでは、こちらでも硝煙の臭いが鼻腔をついてくる。
 ――敵に味方のロボットが押し倒されると、ドン、と実際にシートが俺の背中を叩く。
 ――スピーカーからガンガンと鼓膜を刺激するサウンドに、銃弾がこちらに飛び出してくる3D映像の視覚効果。観客に緊張を与え続ける。
 不意打ちみたいな仕掛けの連続だった。時折劇場に控え目な驚き声が聞こえたが、すぐに銃撃戦の激しい音響効果に飲まれた。
 智幸も例外ではなかった。
「きゃっ!」
 あれだけ平気だと強がっていた智幸は不意打ちじみたシートの揺れに仰天している。
 俺は声にこそ出さないが揺れは中々に強く、ひじ掛けに手を置いてしっかり掴まってないと重心がぶれて不安定になる。
 瞬間、俺の手にじわりと温度が伝わってきた。最初は4DXの座席効果だと思った。
 違った。
 智幸の手だった。
 俺の手の上に、彼女の手が重なっていた。
 おそらく、彼女は重心の安定をはかろうとして咄嗟にひじ掛けに手を伸ばしたんだろう。けれど、俺の手が先にあったから重なって……。
 智幸の手のひらはじわりと汗ばんでいた。彼女の水分がリアルさをともなって俺の肌へと伝わる。
「ごめっ――」
 智幸が慌てて手を離そうとして――
「わわっ」
 バランスを崩しそうになったので、危ない、と今度は俺が彼女の手を掴まえてひじ掛けに固定させる。さっきと上と下が逆転して、彼女の手の上に俺の手が重なる。
 無意識の行動だった。
 重ねた手から互いの温度を交換し合っている。肌と肌を通して、そのうちバクバクの自分の鼓動すら通じて、最後には心の内まで疎通してしまいそうだと危惧した。
 緊張で強張っていた智幸の手だったけど、俺が離さないようにしっかり、けれどできるだけ優しく掴んでいると次第に力が抜けていった。
 スクリーン上に展開された戦闘が一区切りして落ち着いたシーンに映ったところで、俺はそっと彼女から手を離した。自分がしていることをいまになって気づいて焦った。
 ――ごめん。
 ほとんど唇の動きだけの、智幸の声量。ハッキリとは聞こえなかったけど、たぶんそう言っている気がしただけだ。
 対して俺は、なにも言えなかった。
 スクリーンを観ていても映画のストーリーなんてまったく頭に入ってこなかった。
 ただひたすら胸の鼓動が痛かった。

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