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 ←あらすじ →2話 ソイツの名は
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青春アメとミエナイ彼女

1話 春と夜間とヤマト男子

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chapter.1


 夜がすぐそこまで迫った藍の空模様。都心から少し離れた文京区白山の街並みは閑静で、大学までのメインストリートは講義を終えて帰宅する大学生たちで占められていた。
 学生のほとんどが最寄り駅へと向かうなか、俺の進む方向は正反対だった。学生たちの流れに逆らうよう、大学に向けて駆け抜けていく。
 コンクリの歩道を走りながら、疑問があった。
 ――なんで俺は会社の制服で大学に向かってんだよ!
 マスコットキャラの白ネコがプリントされた緑のブルゾン、下は薄ベージュ色のズボン。宅配業者『大和配送』の作業着、すなわちバイト先の服装だった。
 勢いよく両足を前に出しながら腕時計を見て焦燥感が強くなる。
 まずい、急がないと待ち合わせに遅刻する。
「あ、ヤマトの人だ」すれ違っただれかが言った。「荷物配ってんのかな、足はえー」
 違えよっ、と俺は加速しながら心のなかで否定する。
 よく見ろ、荷物なんて持ってねえだろ。持ってるのは肩にかけたトートバッグだけだ。バッグの中はルーズリーフと筆記用具が入ってるんだ。
 会社の制服姿だけど俺は大学生だ。
 これから大学なんだよ。
 夜間の。二部の。
 仕事なんてとうに終わっている。
 みんなが帰宅する頃に、俺は登校なんだよ。
 今日はわけあって制服のまま大学に向かってんだよ。
 制服のまま授業受けるハメになったんだよ。
 くそっ、罰ゲームだよなこれ。
 どうしてこうなったんだっけ。ええっと……。
 待ち合わせに遅刻しそうなのは、バイトのせいだ。
 普段なら定時であがれるのに、今日に限って先輩から集荷を頼まれて残業させられたんだ。家に帰って着替えていたら待ち合わせに遅刻すると思って、職場から大学へと直行したんだ。
 そもそも、どうして待ち合わせなんてしているのか。
 根本的なところまで遡るなら堺教授に頼まれたからだ。
 春休み、二年の堺ゼミ受講者一覧が大学の掲示板に張り出されたとき、俺は教授室に呼ばれた。そこで堺教授からゼミ長に任命され、そしてあることを頼まれた。
「今年度のゼミなんだけど、一部から二部に転部してくる学生がうちのゼミに入るんだ。名前は君島智幸(きみしまともゆき)。そこでゼミ長の三浦くんにお願いなんだけど、君島くんの面倒見てほしいんだよね」
「面倒、ですか?」
「具体的には、初回のゼミのとき教室まで案内してほしいんだ」
「案内なんて大学も二年目ですよ。いちいち必要ないと思いますが」
「授業入る前にある程度交流しておくとお互い馴染みやすいじゃないか。昼と夜は雰囲気違うと思うし」
「まあ、そうですかね」
「待ち合わせは創始者の銅像で、時間は午後五時五十分。そう君島くんには伝えてあるから……って、そうだそうだ。三浦くん携帯持ってなかったんだっけ。とりあえずじゃあこれ、君島くんの大学個人用パソコンのメアド。メモってあるからあげる。連絡するならパソコンでやりあって」
「はあ」
「最低限の連絡事項は向こうに伝えてあるし、別に連絡先はいらないと思うけどね。銅像前は新歓時期終わってるから待ち合わせに使ってる学生も少ないと思うし、すぐ君島くん見つけられるよ。それじゃまかせるよ。ボク、これから学生たちと飲み会だからさ。いやぁ、人気ある教授は辛いねー。わははは。頼んだよゼミ長、シクヨロ」
「はあ」
 と、なんとなく呆けていたが、いや待てよ。
「……って、先生。ちょっと待った先生っ!」呼び止めたがすでに遅かった。堺教授は俺の視界から消えていた。
 君島智幸についてもっと詳しく聞くべきだった。君島智幸の外見がまるでわからない。教授はすぐ見つけられると言うが、やはり当日着ていく服装とかカバンの色とか、事前にどうするか連絡を取り合っておいたほうがいい。
 家に帰って自宅のパソコンから君島智幸にメールを送ったのだが、エラーで送れなかった。メモを見直してもう一度送るがやはりエラー。
 このメモ、メアド間違って書いてあるじゃねえか……。
 頼むよ教授。あの人はどこか抜けている節があるからな……。
 結局、それからバイトが忙しくて教授に問い直しに行けず、まあなんとかなるだろと楽観も重なって、気づけば待ち合わせ当日。俺は額に汗を浮かべながら走っていた。
 急がないと、待たせるわけにはいかないと、そう一心不乱に前に進んでいると――ひらりと、桜の花びらが視界を横切った。
 足を止める。顔を上げると東星大学の校門が開いていた。
 腕時計を見ると午後五時四十九分。ほっと胸を撫で下ろす。よかった、ギリギリ間に合った。もう急ぐ必要はないと、呼吸を整えて校門をくぐった。
 校門から待ち合わせ場所の銅像まではゆるやかな勾配になっていた。道の両端には春を象徴する満開の桜が咲き誇っている。春風に揺らされて桃色の花びらがはらはらと舞い落ちるなか進みながら、もうすぐ出会うだろうソイツの名前を口にしていた。
「君島智幸か……」
 一部、つまり昼の時間帯に授業受けている場所から夜の二部に転部してきた男子学生。
 どんなやつなんだろうか。これから一年間仲良くできるだろうか。会社の制服姿の俺を見たら驚く、よな……。あー、笑われるかも。うわ、初対面からそれって最悪だ。第一印象が大事なのに。ちくしょう、残業さえなければ……。
 ため息をつきながら散った桜の絨毯を踏みしめる。そうして勾配を上った先、待ち合わせ場所である東星大学創設者の銅像が現われた。
 そして、いた。
 学生がひとり、だれかを待つように佇んでいた。
「……あれ?」
 けれど、頭上に疑問符を浮かべた。
 待っていた学生は男ではなく――女だった。


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