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青春アメとミエナイ彼女

18話 これはデートか見返りか?1

 ←17話 服 →19話 これはデートか見返りか?2
   ※

 智幸との約束の日、当日。
 突き抜けるような青空に響く池袋の喧騒。待ち合わせ場所のフクロウを模した交番は池袋駅東口から出て少しのところにあった。
「……いくらなんでも早く着すぎたよな」
 待ち合わせ時刻は午後三時だったのだが、俺は一時間半も前に交番前に着いていた。
 待ち合わせ場所にかなり早く到着したのは大した理由じゃない。今日に限って朝四時に目が覚めて、それから二度寝しようとしても寝つきが悪くそのまま起きてしまったのだ。家にいてもそわそわして、外の空気を吸っていたほうが精神衛生上よろしいと判断して早めに出た。早すぎる気がしないでもないが……。
 改めて服装確認をする。紺のテーラードジャケットに、インナーは白のシャツ。下は黒のスリムパンツに、靴はブーツスニーカー。
 コーディネートは海がしてくれた。海は似合っていると背中を押してくれたが、本当だろうか。智幸にがんばりすぎと思われないだろうか。
 腕時計で時間を確認すると待ち合わせ時刻までまだ一時間近くある。
 約束の時間が一秒事に近づくにつれて、鼓動のピッチが上がっていった。緊張と同時に、不安もゆるやかに広がっていく。
 ――最初出会ったときみたいにまたすれ違わないだろうか。
 目の前を行き交う大勢の人たち。だれもが早足で肩がぶつかりそうになりながら交差していく。この人波のなかに智幸の亜麻色の髪は飲み込まれてしまわないだろうか。もし見失ったら、携帯を持っていない俺は連絡のつけようがない。
 智幸に気づけなかったら、すれ違ったら、俺はどうすれば――
「あれ、三浦くん? もう着いてたんだ」
「うわっ!」
 背後から不意打ちみたいに呼ばれて思わず全身が跳ねた。
 振り向けば智幸の艶やかなショートが春風に揺れていた。
「なんでそんなに驚くかな。うわって驚き方はやめてほしいよ。もう」
「す、すまん。君島がこんなに早く到着するとは思ってなくて、いきなり声かけられたからびっくりしてつい……。てか、到着すんの早すぎんだろお前」
「そ、それは……ちょっと早起きしちゃったからさ、なんていうか、割と早めに池袋に来たんだよ」ごまかすように智幸は跳ねた髪の毛先を指でいじる。「というか君だって人のこと言えないでしょ」
 確かに人のことは言えなかった。俺だって智幸と同じだ。
 そんな智幸の今日の服装は、純白のブラウスに可愛らしいリボン、黒のスカートだった。風になびくスカートのプリーツが彼女の可憐さを引き立てる。
「な、なにかな。黙ってじっと見て……」
 ブラウスの胸元をくしゃりと掴んで恥ずかしそうに身を縮める智幸。緊張しているのか声が強張っている。
「あ、いや……君島のスカート姿はじめて見たっていうか、可愛らしいっつうか、似合ってんなって」
 ぽろりと本音がこぼれてしまった。まるで俺らしくないセリフに自分でもなに言ってんだと赤面するが、智幸はぱっと花みたいに笑顔を咲かせた。
「たまにはいいこと言うね、君」
「たまにはってなんだ、たまにはって」
「それで、これからどうしよっか? お互い早く着きすぎて時間できちゃったね」
 二人して予定時刻を繰り上げて到着するという奇遇。困った。想定外の間にこういうとき女の子とどう過ごせばいいかわからない。
 フツーに考えて、喫茶店で時間を潰せばいいのだろうか。ただ、目の前にある喫茶店はカウンターで列ができてて明らかに満席状態だった。ほかにどこか喫茶店があるだろうか?
 池袋は目まぐるしいほど賑わっていてどっちに歩けばいいか迷う。こういうとき穴場を知ってれば……。くそ、もっと遊んどくべきだったな。
 わしわしと髪を掻いて方針を考えていると智幸が言ってくれた。
「あのさ、時間あるならそこの携帯ショップ寄ってほしいな」
 智幸が指差したのは喋る白い犬で有名な携帯会社のショップだった。
「携帯のバッテリー消耗してるっぽくて交換したいんだ。寝込んでるときバッテリー切れるの早いと思ったんだよ。寄っていいかな?」
「上映までだいぶ時間あるし、構わねえよ」
 そっか。間が空いたら女の子にどうしたいか聞けばいいのか。
 携帯ショップに入ると、店内は比較的空いていた。さっそく智幸は店員をつかまえてバッテリー交換を頼んでいる。
 手持無沙汰な俺は棚に陳列されたスマホの新機種を眺めていた。種類が多すぎてなにがなにやら。どの機種も同じに見える。
 数ある中から適当にひとつ手に取っていじりながら、ふと思い立った。
 ――携帯さえを持っていればすれ違いがなくなるだろうか。
 携帯なんて煩わしいだけだと思っていたのは、たぶん会社から持たされたせいだ。荷物片手に急いで配達しているのにも関わらず、次から次へと集荷やら再配やら電話がかってきてうんざりした。
 これまで携帯がなくてもそこまで不便だとは思わなかった。ネットに繋がったパソコン一台あればメールも、いまじゃ電話だってできるのだから。
 でも、だれかと繋がれるのは俺がパソコンの前に座っているときだけ。外出してしまえばそうではない。
 携帯さえあれば、智幸と最初に出会ったあの日みたいにすれ違うことはないのだろう。智幸が困ったときに気軽に連絡しろとも言える。仮にいま広大な池袋ではぐれたとしてもすぐ見つけられる。
 どこにいても繋がれて、どんな場所でも他人と自分の声を届けられる魔法の機械。あんなに疎ましかったものが、いまはかけがえのない代物に映っている。
「三浦くんって、これからも携帯持たないつもり?」
 いつのまにかバッテリーを交換した智幸が俺の横に並んで同じように携帯を物色していた。
「固定電話は持ってるの?」
「まさか。大学生のひとり暮らしで固定電話持ってるやつは少ないだろ」
「大学生のひとり暮らしで携帯電話持ってない君が言うかな、それ」
「いままで連絡は全部パソコンで済ましてきたんだよ」
「不便でしょ。さすがに就活がはじまったら携帯必要だよ。もう来年だよ、就活」
「そう、だよな……」
 不便。そう、智幸と出会ってからなにかと不便だと思うようになった。
 どのみち、来年の就活時期には持たなければいけないことぐらいわかっている。それなら、どうせ持つなら、いまから手にしたって――
 目線を上げれば『本日中即お持ち帰り』、『新機種実質0円』と俺の背中を押すようなポップが書かれていた。
「携帯の契約って、やっぱ時間かかるよな」
「いま混んでないし、すぐ終わると思うよ」
「じゃあいいかもな。いま、携帯買っても」
 すれ違いが、なくなるなら。
「おおっ、これでやっと生きてる化石から現代人に仲間入りだね。そんな携帯を買うことを決心した君に、先輩である私が契約までいろいろサポートしてあげよう。アウストラロピテクスくん」
「うるせえよ。携帯ないと死んじゃう病に犯された現代人め。契約なんて俺ひとりでも楽勝だ」
「じゃあ君はこの多種多様でそれぞれ特徴が異なる機種の中から自分に合ったベストを選べるんだ。へぇー、へぇー。複雑な契約プランに頭がくらくらしないんだ。へぇー、へぇー。受付のお姉さんの口車に乗せられて不要な割高オプションとか組まされちゃっても平気なんだ。へぇー、へぇー」
「……教えてください」
「ふふっ、最初から素直にそう言えばいいんだ」
 智幸が陳列された携帯を持ってあれこれ説明してくれる。「画面はワイドなやつがいい? それともバッテリー長持ちのやつがいいかな?」「色、ホワイトがいいね、明るくて」「ネットあまりしないならこっちのプランのほうが割安でおすすめだよ」ともろもろ丁寧に解説してくれる。
「メールと電話ができればいいや」俺がそう言うと智幸はぷすっと吹き出した。「それぐらいいまどきどんな携帯でもできるよ」
「じゃあ、ムービー機能が充実しているやつ。撮りたい光景があったら、すぐ撮れるように」
 それならと、智幸がオススメしてくれた携帯を俺は買うことにした。
 契約はどうやらキャッシュカードと運転免許所があればいいみたいで、店員の説明を聞いて真新しい携帯電話が入った小包を渡された。
 一連の流れはスムーズであっさり契約できてしまったことにちょっとびっくりした。本当に本日中即お持ち帰りだ。
「ね、そこのスタバでちょっと休憩しよ。休憩がてら新しく手に入れた携帯もいじれるしね。君、初期設定とかでつまずきそう。最後まで責任持って一緒にしてあげるよ。アウストラロピテクスくん」
 どれだけ携帯音痴だと思っているんだと抗議しようかと思ったが、智幸側に一理あったので黙って従うことにした。
 スタバに入って真新しい携帯の初期設定を教わる。どうにもフリック入力が慣れなくて手こずる。会社の携帯はガラケーだから扱いがまるで違う。
 メールアドレスの設定で何度か入力ミスしながら、適当に思いついたメアドを打ちこんだ。
「うわー、メアドが自分の名前と誕生日ってセンスないな。すごいテキトー。もしかして男の子ってみんなのそうなのかな。私、すっごく悩んだのに」
 女の子はメアドに意味とか趣向とか、ひょっとしたら願いとか、そういった類のものをこめているかもしれない。まるでひとつの詩みたいに。
 けど俺からしたらメアドなんて記号で、わかりやすいに越したことはない。
「ま、いまの主流はメッセージアプリだからメアド使ってない人けっこういるけどね。でも、私はメールが好き。なんかメアドに変に愛着湧いちゃって」
「人を馬鹿にするぐらいだ。さぞ、センスあるメアドなんだろうな」
「君よりはね」
 智幸は自分の携帯をいじってプロフィール画面を俺に見せつける。どうだっ、と水戸黄門の印籠を見せつけるシーンの如く。
 智幸のメアドは簡単に言ってしまえばオットーセイくんが好きってニュアンスのものだった。拍子抜けだ。こいつのセンスも大概じゃねえか。
「……これ、さ」
 表示された智幸のメアドと電話番号。世界でたったひとつの彼女の連絡先。どこにいても通じることが可能な入口。
 思うところがあった。
「……アドレス、登録していいか?」
 声を肺から振り絞って、震えそうになるのをできるだけおさえた。
 智幸はすぐに返事せず自分の携帯を見たままで、それは一秒にも満たないのほどの間だったが、その一瞬が俺には永遠のように感じられて、たまらず照れくさくなって付け加えた。
「ゼミの連絡とか、できたほうがいいし」
 もっと素直な言い方があるのに、言えなかった。
「だね」智幸は頷いて、いじわるな笑みを作った。「センスないなーっていつでもばかにできるように、君のメアドも登録しとくよ」
 俺が智幸のアドレスを登録して、智幸が俺のアドレスを登録して。
 携帯に登録したはじめての連絡先は家族でも親友でもない、君島智幸だった。

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