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 ←16話 【虚】重ねた約束 →18話 これはデートか見返りか?1
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青春アメとミエナイ彼女

17話 服

 ←16話 【虚】重ねた約束 →18話 これはデートか見返りか?1
   ※

   cut6 大林奈々子

「『サウンド・オブ・ミュージック』ってガールズバンドやってます! いえい! ウチのバンドの特徴は十代から三十代までメンバーの年代が幅広いことなんだ! オープンキャンパスの日に百周年記念ホールでライブやるからぜひ聴きに来てねっ! カバーからオリジナルまで幅広くやるよ! そこの君たち、私の歌を聴けええぇーッ!」

   cut.7 野村さやか

「……ワタシ、卒論のテーマは『ムダ毛』についてやろうかと考えてるの。え、どうしてムダ毛かって? ムダ毛が原因で彼氏と別れて、それからムダ毛が無性に気になって……。ねえ、ムダ毛ってなんだと思う? ムダ毛の概念はいつから生まれたの? 気になるでしょ。だから調べたのよ、ムダ毛の起源を。国会図書館でひたすらムダ毛に関する資料探し、フフ。そしてわかった、メディアが関わっていたことに。明治から昭和にかけて発行された雑誌でムダ毛について論述があった。ねえ、知ってる。むかしの女優は平気でワキ毛を見せたのよ。メディアという観点からムダ毛をアプローチしてここまできたわ。フフ、ウフフ」

   cut.8 田中太郎

「映画作ってんの、自主制作映画。タイトルはずばり、『俺が靴だと思っていたものは本当は鍋だった』! どうだ、興味を引くタイトルだろ! いやー、このタイトル思いつたときにはもう俺天才じゃねと思ったね。勝った、これは勝ったとガッツポーズしちゃったよ。どんどんアイデアが湧いて脚本がいま仕上がって、役者と本読み真っ最中。つーわけで、『俺が靴だと思っていたものは本当は鍋だった』完成したらよろしく! あ、エキストラ募集してるから気になったら連絡くれよ!」



 PR映像の撮影後。俺は海と大学近くのファミレスにやってきた。深夜まで営業していて二部生でも学校帰りにゆったりと話すことができる憩いの場所だ。
「悪いな。真季と帰れたのに俺が誘っちまって」
「気を遣わなくていいよ。真季とは普段から一緒にいるからさ。だからほら、真季だっていってらっしゃーいって送り出してくれたでしょ」
 ボックス席の向かいに座った海はニコリといつもの微笑で、ドリンクバーのコーヒーを飲んだ。
「変わってないなぁ、ここのコーヒー。ま、ファミレスのコーヒーの味なんてそうそう変わらないよね」
 授業後、海と二人きりでファミレスに足を運んだのは久しぶりだ。
 橙色の照明に染まる店内。夕食時をとうに過ぎてまばらにしか埋まっていない客席。スピーカーから陽気なジャズが流れていて、雰囲気は一年前と変わっていない。
 ふと、俺の座っているイスの端っこのほうに目をやるとシートが破けて小さな穴ができていた。まるでほじくったように黄色のワタが出ている。これまだ直してねえのかよ。変わってねえな、ホント。
「ここのファミレス、僕が真季と付き合う前は九とよく来てたよね」
「一年の頃な。ドリンクバーだけで深夜まで駄弁ってさ、いま思えば店員すげーうざがってただろうな。しかも喋り過ぎて時間忘れて、お前よく終電逃して俺の家に泊まり来てた」
「あははっ。あったあった。で、九の家に行ったあとも喋ってるの。それで気づいたら朝になっててお互い寝不足のままバイトなんてざらだったよね」
「お前、ふとんの中入ってからがトーク本番とか言い出すんだもんな。眠気どこいったレベルだよ。ネパールコーヒーに対する情熱とか、高地栽培における大変さとか、フェアトレードの仕組みとか……って、主に盛り上がってんの海だな」
「いやいや、ゼミの話だってしてたじゃないか。○○くんが○○さんのことを気になっているとか、最近あそこ付き合いはじめたとか、フラれたらしいとか、それこそ修学旅行の夜にするような話をさ」
「それも海が一番盛り上がってた」
「ほかによく話したのは、僕が真季と付き合う決心できない話だね」
 あったな。そういう話。
 あのときも俺は穴の空いたイスのほうに座って、向かいに海がいた。
「なんだかんだ言いながらも、九は僕の話によく付き合ってくれるんだよね。授業が終わって疲れてるはずなのに、ちゃんと聞いてくれた」
「実際聞いてるだけだったけどな。なにかアドバイスしたわけじゃない」
「そういうのは、聞いてくれるだけで半分は解決しているようなものなんだよ」
 心から和んでいるように微笑む海。
 こいつは柔らかくなった。そうだ、海を包む空気がふわりとしていて柔らかい。
 昨年度、俺の前に座ってコーヒーを飲んでいるときは苦々しく唇を曲げて、苦笑してばかりだった。
 出会ったときから爽やかで微笑む表情がやけに絵になるやつだったけど、実は結構思い詰めるタイプだった。変なところで真面目で、一度決めたら考えが固定して抜け出せない。柔軟に見えて石のような硬さがあった。
 それがいま優しく溶かされたように見える。まるでコーヒーに溶け込む角砂糖のように。
 確実な変化は真季と付き合ってからだ。
 変化のないファミレスの中で、海だけは変わったように見える。
「付き合うって、どんな感じなんだ?」
 深い意味は特になかった。無意識に声に出していた。
「珍しいね、九からその手の質問が飛んでくるなんて。どんな感じ、感じか……。僕が真季と付き合って感じたことは、そうだね――」
 手で一度あごを触ってから言った。
「付き合うって、認め合うことなんだろうね」
 ぶれのない声。自分のなかで揺るぎなく打ち建てられた答えを持っている人間の言い方だった。
「だれにだって他人に見せたくない部分ってあるよね。友達にも、家族にも知られたくないこと。弱いところとか、汚い部分とか、傷とか。でも不思議と好きな人には見せられる、っていうか付き合っていると見えちゃうことがあってさ。そういう部分を、真季は受け入れて認めてくれるんだよ。もちろん真季にだってそういう部分はあって、だから僕も受け入れて認める。そうやってお互いに見せたくない部分をひとつずつ確認して、受け入れて、認めていくって過程が付き合うってことなんじゃないかな。だとしたらきっと、結婚っていうのはすべてを認め合った結果なんだろうね」
 海の話は遠い世界の物語を聞いているようだった。
 完璧で理想的な優しい世界観。俺の想像が及ばないおとぎ話。
 果たして、この世界にいるのだろうか。大学生なのか社会人なのかわからない中途半端な自分を受け入れてくれる人間が。この先、そんな陽だまりのような世界観を抱えている人間が現われて認めてくれるのだろうか。

 ――私も、普通じゃないから。

 一瞬、彼女の影がちらついた。
「それで、今日の本題は僕と真季のノロケ話三時間コースってことでいいのかな?」
「さすがに勘弁してくれ」
「九の家で朝まで真季自慢でもオーケイだよ。コーヒー道具一式持ってきたからカフェインもバッチリ!」
「泊まらせんぞ! 絶対に泊まらせんからな!」
「あははっ」
 おどけながらも笑顔で頬杖をついて本題を待つ海。
 俺はストローでアイスティーの氷をちょんちょんとつついて切り出し方を考えながら、でもスマートな切り出し方なんて思いつかなくて、とつとつとその件を口にするしかなかった。
「君島とさ、映画館、行くことになった」
「二人で?」
「まあ、二人かなと」
「お、デートだ」
「でっ……デートじゃなくてっ!」
 反射的にバンッとテーブルを叩いて立ち上がって否定した。ウエイトレスが何事かと怪訝な視線を突き刺してきたので、俺は慌てて頭を下げてイスに座る。なにやってんだバカ。落ち着けよ、俺。
「せ、正確には……これ、デートじゃなくて見返りなんだよ」
「見返り? どういうこと?」
 返答に窮した。智幸の家に行って看病した経緯を話していいかどうか迷ってしまう。
 というのも、今日の撮影のとき智幸は元気な姿を見せた。体調がよくなって撮影機材のセッティングから二部生の聞き役として活躍してくれたが、事情を知らなかった真季や海はやはり心配して、そこで休んでいたときの状況を尋ねていた。智幸が事情を説明しているとき、ちらっとうかがうように俺を一瞥こそしたものの、俺が様子を見に来たことは一切喋らなかった。
 互いに秘密にしようと決めたわけではなかった。
 けど、智幸は胸の内に隠した。
 月見うどんを食べたことも、恋愛映画好きということも、オットーセイくんのぬいぐるみでおどけたことも。
 俺が話さなければ、あの日あった智幸の一面は俺以外だれも知らないことになる。
 俺だけの、もの。
「まあ、君島に貸しを作ってさ」
 結局、言葉を濁した。
「それで、君島と映画館に行くのはいいんだけど、問題があって……」
「問題?」
「服がないんだっ。よそ行きの服がまったくないんだよ」
「九が普段大学で着ている服装で問題ないと思うけど?」
「な、なんか嫌じゃん! 遊びに行くのに大学と同じ服着てるって思われそうでさ! ただでさえこっちはヤマトの服装のイメージが強いんだ。洒落てるとまではいかなくていいから、こう、普通の、いい感じの服を着ていきたいと思って」
「ははっ、普通なのかいい感じなのかよくわかんないよ」
「よそ行きの服ってあんま意識したことないからよくわかんねえんだよ。やっぱ、多少は、カッコつけるべきかなって……。だから、その、今度買い物付き合ってほしくて……」
「なんか可愛いこと言うんだね、九」
「うるせえ!」
 海は陽気に笑って頷いた。「いいよ。一緒に服を見に行こうか」
 それから数時間、海との会話は弾んだ。どこに買いに行くか、どういう服装がいいのか、また話が転じて映画の話とか、海から見る智幸の印象とか、やっぱり真季とのノロケ話とか、深夜を回っても会話は途切れることなく、ドリンクバーを何杯もおかわりした。
「そうだ。真季と付き合って感じたことをあとひとつだけ」
 店を出るとき、最後にこれは覚えておいたほうがいいとアドバイスしてくれた。
「後悔したくなかったら自分の気持ちに嘘ついちゃダメだよ」

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