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青春アメとミエナイ彼女

14話 智幸がいない

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chapter.3


「君島が大学に来ていない?」
「そうなんだよー! トモちん、ぜんぜん顔見せないんだよっ!」
 真季からその知らせを聞いたのは七限の授業が終わったあとだった。さっさと家に帰って飯を食おうと校内を歩いていると、別の授業を受けていた真季と鉢合わせたのだ。
「きのうのメディア史、トモちんと一緒に受けてる授業だったんだけど来てなかったんだよ。あれーと思ってさ、そしたら今日の情報検索論も欠席してたんだよ」
「二日連続で欠席してるってことか?」
「うん。トモちんが欠席してるところなんてはじめてみたよ」
「確か俺たち自身を撮影したのが三日前だよな。じゃあ、あれから智幸は大学に来てないってことか……。携帯に連絡してみたか?」
「それが連絡つかないんだよー。メール送っても返してくれないし、電話しても電源がついてないうんたらかんたら。普段ならメールぐらい返してくれるのに」
「真季、君島とメールとかしてんのか?」
 ちょっと意外だった。
 アドレス教えるのをしぶっていた智幸がいまでは真季とメール交換なんて。俺の知らないところで女の子同士交流が活発になっているのだろうか?
「毎日じゃないけど、ちょこちょこメールしてるよ。くだらないこととか見つけたら写メつけてトモちんに送りつけるんさ。道端に気味悪いきのこ生えてたとか、浮かんでる雲がうんちみたいとか」
「本当にくだらねえな」
「舐めてもらっちゃ困るぜダンナ。とーぜん授業に関係する大事なこととかも送ってるんさ。で、真面目な内容の場合はちゃんと返信くれるんだよ。なのに今回の場合は音信不通で、しかも連続して欠席なんて……なんか変じゃない? いや、ぜったい変。変だよ」
「変、ね……」
 考えられる可能性は――俺は真正面から真季を見据える。
「お前、智幸に嫌われてるんじゃないか。変なことばっかしてるから」
「あたしのせい!? 変なことなんてしてないよ! 会ったときに欧米的なフレンドリーシップでさわさわしてるだけだよ。二の腕とか、腋の下とか」
「はい原因発見」
「ぶっちゃけると最近おっぱいもさわさわした。そしたらトモちんがパッド仕込んでること判明したよ! 【特報】トモちんのバストに強化装甲。チョバムアーマー」
「絶対にそれが原因じゃねえか。ほどほどにしとけよ。じゃあな」
 帰宅しようと右足を一歩前に出すが、ぐいっと後ろに引っ張られる。真季が俺の手を掴んでいた。
「待ってよ九ちゃん! トモちん、素っ気ないこと多いけど懐かれるのそこまで嫌がってないよ」
「どうしてわかる」
「あの女はあたしに相手されて嫌よ嫌よと言いながらも心の中じゃうはうは喜んでやがるぜ。うへへっ」
「帰るぞ。俺は腹がへってるんだ」
「じょ、冗談! いまのはちょっとふざけて言っただけ! さわさわしたら割と本気で怒ってたからもうやらない、それはやらないけどさ、なんというか……わかるんだよ。トモちん、実は声をかけてもらったり、だれかと話したりするの、そんなに嫌じゃないって」
 ぎゅっと、真季は俺の手をさっきより強く握った。
「ひとりでいいなんて心から思ってる人、いないでしょ」
「…………」
 はぁ、と深く息を吐いて、家に向けていた足先を変えて真季へと向き直す。
「仮に、仮にだよ、あたしのこと嫌いだったとしても、授業にはちゃんと出る真面目な子だよトモちんは。それが連絡つかないで休んでるなんておかしいよ」
「けどまだ二日だろ。一週間以上欠席してるならさすがに気がかりだが、二日ぐらいの自主休講なんて大学生ならよくある話だ」
「けど心配だよ。前に聞いたんだけど、トモちんひとり暮らしなんだって。あたしもひとり暮らしだからわかるけどさ、親がそばにいないからなにかあったときすぐ助けてくれる人いないんだよ。できればトモちんの家に様子を見に行ってあげたいけど、住所わからないんだよ」
 ――千石駅の近く。大学から歩いて帰れるところ。
 前に智幸がそう言っていたことを思い出す。
 俺は浅く目を閉じた。
 頭の中にある引き出しを開けて、そこに入っていた地図を手にする。配達業で培われた記憶の地図。職業病の産物みたいなものだ。
 空想の世界で地図を広げ、俯瞰して眺める。大学から歩いて行ける距離で千石駅周辺、その情報から考えるなら一丁目、四丁目、六丁目、本駒込二丁目も入るな。あそこらへんは大学近くだから学生マンションや単身向けアパートが結構目につく。
 肝心なのは智幸がどこに住んでいるかということだが――
「…………」
 だめだな、見つからない。
 俺の配達区域なら一軒一軒表札までマッピングされた緻密な地図を持っているが、生憎、千石駅周囲は区域外で大まかな区画ぐらいしか把握できない。
 俺ひとりの力じゃだいたいの見当をつけるのが精一杯で、智幸がどこに住んでいるかなんてわからない。
「ねえ、どうしよ九ちゃん」
 いつも明るい光が射す真季の瞳は心配そうに翳っている。
「どうしよって言われてもな……連絡つかないんじゃどうしようもないだろ」
「心配じゃないの九ちゃんは。ゼミ長でしょ。教授にトモちんの面倒まかされたんでしょ。ゼミ、あさってだよ。このままもしトモちんと連絡つかなくてゼミ来なかったらどうすんのさ」
「……さあな」
 じゃあな、と今度こそ俺は真季から離れていた。「もう」と真季は両頬を膨らませていたが俺は無視した。
 ほかに考えるべきことがあったからだ。







■クロスカッティング 君島智幸


 目覚めはよくなかった。
 ぐにゃぐにゃと不安定にまどろむ意識。寝たのか寝てないのかわからない曖昧な感覚。
 ベッドから体を起こそうとして、泥沼に浸かっているような倦怠感があった。だから横たわったまま目線だけ動かしてアナログ時計を見る。午前十一時。もう昼だ。
 ここ数日、風邪のせいでとにかくだるかった。
 携帯が何度もコールしていたけど、あまりにだるくて確認しなかった。そのうちバッテリーが切れたのか静まり返った。充電しなきゃと思ったけど、充電器が目につくところになくて探すのが億劫でたまらなかった。
 体調崩したのは、仕事と学業と、あと人前で気を張り過ぎていたせいだろうな……。
 けど風邪薬を飲んだおかげか、三日前にくらべれば体調はだいぶマシだ。頭痛も消えてくれて、授業休んだおかげである程度回復できた。
「…………」
 薬、あってよかったな。お母さんが電話越しに常備薬は置いておきなさいと口うるさく言っていた。最初はお金かかるしいらないよそんなものと煩わしかったけど、お母さんが勝手に頼んで、薬品会社の人が常備薬を持ってきて、結果として助けられた。
「…………」
 バイト、やること溜まっちゃってる。三日も手つかずだったのは二部にきてはじめてだ。
「…………」
 今日の夜の講義はどうしよう。出席できないこともないけど……。
 ふとんをどかして上半身だけ起こす。相変わらず鉛のように全身が重いけど、なんとか動くことはできる。でも、大事をとって休んだほうがいいかな。
「…………」
 テレビのリモコンどこだっけ。ああ、立ち上がって探すの億劫だな。後回しにしよ。
「…………」
 お腹、空いてきたな。朝ご飯、というかもう昼ご飯か。どうしよう……。冷蔵庫、確か空っぽだ。しまったな。寝込むことになるならスーパーで惣菜パン買いだめしとくべきだったな。夕方になるとセールで残ったパンが詰合せになって安いんだよなぁ。しまったなぁ……。
 いまからコンビニまで歩いて……ああ、歩かなきゃ。そのために着替えないと。顔洗って、髪も整えて……そうだ、洗濯物たまってるんだった。うわぁ、もう三日も洗ってないよ。やることが多くて頭がくらくらしてきそう。
「…………」
 なんだか、静かだな。ワンルームの私の部屋は静寂に支配されている。
 あれ、こんな静かだったっけ。前までゼミのみんなの声が騒がしくて、賑やかで、それがいまは……。
 カチ、カチ、カチ、と時計の音。なんだか今日はやけに耳につく。ギシ、ギシ、とベッドの軋む音もやけにうるさい。
 ああ、そっか。
 私、ひとりなんだ。
「…………」
 ――これが私の望んでいた大学生活?
 生まれ育った世界と違う世界を願いながら、体と神経すり減らすような毎日を過ごしているだけじゃ……。
「……ダメだよ」
 この感覚はまずい。
 ふとんをかぶる。つま先から頭頂部まで全身すっぽり覆って、二枚貝みたく閉じこもる。目の前は真っ暗で、キーンと耳鳴りだけがする。静けさに胸が押し潰されそうだ。寝よう。余計なことを考えずに寝よう。
 ひんやりと冷たい場所で胎児のように全身を丸めた。空虚な世界で過ごそうとして――けれど、そんな世界はすぐに壊れた。
 ピンポーン、と甲高い呼び鈴が私の鼓膜を震わせた。
「……だれ?」
 平日昼頃の訪問者……新聞か宗教の勧誘ぐらいだろう。ベッドから起き上がっていちいち出るの面倒だし、どうでもいい。ほっといてほしいよ。
 しかし呼び鈴は鳴り止まず、三回目で「あっ」と私は大事なことを思い出した。
 そうだ。前にお母さんがお父さんに内緒でこっそり荷物送るって電話があった。到着予定日って確か今日じゃなかったっけ。だとしたらドアの向こうにいるのは配達員さんだろうか。
 どうしよう。
 体がだるいのもあるけど、いまの身なりがとにかくひどい。髪を整えてないし、寝起きでメイクもしてないから顔もできない。なによりパジャマ姿で、いちいち荷物受け取るためだけに着替えるのも面倒だ。どうせまたベッドに横になるんだから……。
 ピンポーンと四度目のベル。このまま出なければせっかく荷物運んできてくれたのに、配達員さんに悪い気がする。
 私はベッドから出た。最後に勝った感情は自分の見てくれより、居留守決め込んで配達員さんに苦労をかけたくない、ということだった。「いま開けます」とドア越しに声をかけて、開錠しドアノブを回す。
 ――そして、絶句した。
「ヤマト配送でーす。お荷物お届けに参りましたー」
 目を疑った。
 視界に飛び込んできた映像に、脳が処理しきれない。
 寝ぼけていた意識が一瞬で彼方へと吹き飛んだ。
 ……うそ、でしょ?
 正面でダンボール抱えている配達員、それは、それは――
「よお、君島」
 ヤマトの制服を着ていた三浦くんが、目の前にいた。
「家にいてくれてよかったよ。呼び鈴鳴らしすぎかなと思ってさ、これでダメなら出直そうと思っていたんだ。それで――」
 反射的にうつむいた。前髪がカーテンみたいになって私の素顔を隠す。
 なに、これ。三浦くんのセリフが頭の中に入ってこない。脳内に溢れんばかりの疑問が噴出する。なんで三浦くんがここに? どうして私の目の前にいるの? 私の住んでるとこ配達エリアじゃないって言ってなかった? これは夢? 私まだ寝ぼけている?
 疑問は、次第に焦りへと変わっていく。
 うそでしょ、うそでしょ、とパニック寸前だった。いまの自分の格好を思い出して、ぞわっと背筋が寒気立った。
 やばい……やばい、やばい、やばい。いまの私の身なり、やばいって。寝癖ついてるし、ノーメイクだし、パジャマ姿だ。ブラだって……うわっ、ブラつけてないじゃん! つまり詰め物なくて、それって、それって……! わ、わわわ、わあっ! やばっ、こんなのおかしいって、変だって思われちゃうよ!
 顔が熱い。真っ赤だ。私、いまぜったい湯気が出そうなほど赤面してる。
「――君島? 俺の話ちゃんと聞いてんのか? お前のサインがほしいんだけど」
「うきゅっ!」
 素っ頓狂な声が出た。前髪で隠していた私の素顔を彼がのぞくように見ようとしたから。
「う、き、きっ、きゅっ……!」
「うきゅ? おいどうした君島?」
「きゅぅ!」
 両手で顔を覆う。こんがらがった糸みたいに頭の中がぐちゃぐちゃになる。気恥ずかしさで心臓が激しく動く。バクバクと全身が脈を打っているみたいで、血液の循環が急激に早くなる。
 動悸がする。
 過呼吸になって、うまく息ができない。
 息苦しいのに、心臓は熱暴走気味に血を送り続ける。
 手と足が痙攣する。ほっさが起きたみたいに口から泡を吹きそうだった。
「あ、あっ――」
 くらっと、強烈な日射しに当てられたみたいに目眩がした。
 意識が遠のいていく。足元がふらついた。下向いていた視界がぐるんと天井に移り変わって暗転する。両足の力が抜けてへなへなとその場にへたりこむ。
 三浦くんがなにか言っているけど、声が遠い。うまく聞き取れない。どんどん離れてフェードアウトしていく……。
 そこで、私の意識はぷつりと途切れた。

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