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 ←12話 撮影開始 →14話 智幸がいない
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青春アメとミエナイ彼女

13話 神様のイタズラ

 ←12話 撮影開始 →14話 智幸がいない


「さてさて」真季は仕切り直すようにパンと手を叩いた。「あたしも海ちゃんも終わったことだし、それじゃあ次は――」俺と智幸を交互に指差して、どちらにしようかな天の神様の言う通り――懐かしい言葉を口にして、最終的に俺で指が止まった。
「次は九ちゃんに決定!」
「決定、って言ってもな……」
 俺は顔をしかめた。自分がカメラの前で喋っているところを想像しただけで胸が痛くなる。
「やっぱ俺の映像はいらねえよ。撮っても面白いもんにならねえから」
「えーっ、九ちゃん撮るからトモちんも撮るって話になったんじゃないの?」
「まず君島撮れよ。俺は最後でいい」
「そう言って逃げるつもりでしょー! 嘘つく男は最低だぞ九ちゃん!」
 図星だった。
 真季から逃げるように目をそらした先、智幸の顔があった。
「別にやりたくなければやめてくれて構わないよ」
 逃げてもいいと智幸は言っている。けれど彼女のセリフを裏返せば、「あなたが逃げれば私も逃げる口実になる」だった。
「お前にはパンナコッタやっただろ。お前が出りゃいいんだ」
「パンナコッタと君が出演することが条件だったでしょ」
 俺なんか映してどうすんだ。学校で授業受けてる時間より荷物配ってるほうが長いようなやつなんだぞ。面白味のない画になるに違いない。
 知らなくていいと思う。
 知らせたくない。
 これまで誇れるようななにかがあったわけじゃない。高校生の頃から抱き続けた思いこそあるが、それは海のような信念や真季のような夢にくらべればちっぽけだ。こっちはずっと土砂降りのようなつまんない生い立ちなんだ。
「……テキトーにやりゃいいんだろ」
「なら、私もテキトーにやるだけだよ」
 やけに食ってかかる智幸。
 写し鏡かと思った。ここで俺がカメラの前に立たなきゃ、智幸だって立たない。三浦九が撮影を拒否するなら君島智幸だって拒否権を行使できる権利を得てしまう。適当にごまかしたのなら、向こうだってごまかすだろう。
 しかし。
「君は、私になにを伝える?」
 しかし、逆に言えば、同じだというなら、ごまかさず、偽らず、痛くても胸を開いて中にある自分を見せれば、きっと向こうだって――
「カメラに、なにを話す?」
 あれだけお腹いっぱいって言ってたくせに、いまの智幸はまぶたをぱっちりと開けて、俺を受け入れようとしているみたいだった。
 俺が智幸を知ろうとしているように、ひょっとしたら、こいつも――そんなありえない考えが、ちらっと脳裏をかすめた。
「九ちゃん、こっちにどうぞどうぞ」「九、どうぞどうぞ」真季と海がダチョウ倶楽部のネタみたく両手を差し出す。示した先は勾配を少し進んだ先にある創始者の銅像前。撮影場所をここに変えるということだ。
 奇しくも、最初智幸と出会った待ち合わせ場所じゃないか。
「……俺の映像なんてひでえ画になるぞ」
「もう準備できてるよ、九」と海がビデオカメラと三脚をセットし直し、レフ板と照明は智幸と真季が準備している。
 どいつもこいつも。
「……わかったよ! やりゃいいんだろ! どうなっても知らねえからな! てめえら覚悟しろよ! ひっでえ画になるからな!」
 けっ、と吐き捨てる。ポケットに手を突っ込んだままカメラの前に立ってやる。
「やさぐれてる!」と真季にツッコまれたが、知るか。ヤケクソだ。こうなったらどうにでもなれ。どうせ笑われるんだったら、むしろどうぞ笑えって態度で臨めばいいんだ。鈴木果歩のときと同じ戦法だ。
 海が軽く手を上げてハンドサインを出す。撮影開始の合図。
 一度深呼吸して、語気を強めた。

   cut.5 三浦九

「もう映ってんのか? 映ってんな――サッカー選手の三浦知良の三浦に、坂本九の九、俺が三浦九だ。定時制高校出身。いまと同じように高校に通っていたのは夜。ああそうだ、夜だよ!
 昼は夢と笑顔を届ける運送会社でバイトしている! CMで素敵なモットー掲げているだろ、ほら、『この世界に溢れた夢と希望をお届けする会社、それが私たち』ってやつ。夢と希望? ねえよそんなの! こちとら正社員にあごで使われる毎日で、これじゃあ学生なのか社会人なのかわからねえっつーの。
 俺が馬鹿みたいに働かなくちゃいけなくなったのも女作ってどっかに逃げ込んだクソ親父のせい! どんだけクソなんだよ! 死ね! 金だけ残してトラックに轢かれて死んじまえ! 母親は中卒で安い労働力として買い叩かれてすぐ体調崩すし! 体中に湿布貼り過ぎてすげー湿布臭えし! おまけに更年期障害だぞ! 更年期!
 母親にあんま迷惑かけらねえと思って俺は自立したんだ。母親見てわかったんだよ、俺は。やっぱ世の中、学歴だ、学歴! いま俺をあごで使っているやつら覚えてろよ! いつかてめえら全員あごで使ってやるからな!」

「カットカットカアァァァット!」
 カメラが回っているなか、レフ板持ちながら叫んで突っ込んできたのは真季だ。
「九ちゃん八つ当たりじゃん! 社会に対するロッケンローな魂をこんなところでぶつけちゃダメじゃん! パンクじゃん! 七十年代のアナーキズムを煽るバンドか!」
「うるせえ! てめえらが撮らせろって言ったからやったんだろうが! まだ話してやろうか、俺の社畜列伝を! 親父クソさがわかるエピソードを! ええ!」
「なにそれ意味わかんないよ! もっとほかに言えることあるでしょ!」
「こんなかっこ悪い過去しか俺はもってないんだよ! ほらネタにして笑え! 笑っていいぞ!」
「どんだけ卑屈なの!? 言うにしても程度ってのがあるでしょ! 程度が! さすがにこれはボツだよ! ボツ!」
 ワーワーと俺と真季が言いあっているなか、海はカメラを止めて「いったん、休憩しようか」と苦笑していた。
 撮影は中断。一度小休止をはさむことになった。

 結局ボツかよ。まあ俺もひでえ画だとは思うけどさ。
 心の中でぼやきながら脇に備え付けられているベンチで休もうとして、すでに智幸が腰を下ろして三ツ矢サイダーを飲んでいた。
 撮影中は自暴自棄の力を借りて羞恥心をうまくごまかせたが、一度時間を置いて自分の発言を冷静に振り返ると、なんというか、気まずい……。
 うまく顔を合わせられなくて場所を変えようとしたが、智幸が腰を浮かしてベンチの端へと移動した。
「いいよ」
 ぽんぽん、と空いているスペースを叩く。
 少し考えたが、わざわざそう言われると断りにくい。
 結局厚意に甘えて智幸とは反対側の端のほうに座る。三人掛けのベンチで、俺と智幸のあいだには人ひとり分の空白があった。
 しばらく互いに無言で、夜のキャンパスの静謐さだけが下りていた。
 声をかけたのは、意外にも智幸からだった。
「さっきの話、本当?」
「本当だ」
 俺は、自嘲した。
 バカみたいだろ、ネタにしていいぜ、と言わんばかりに過去をおちゃらけたものにしちまえば気が楽だと思った。顔面の筋肉を持ち上げたらズキリと痛んだが、それでも笑みを作った。
「ハッ、まったくおかしいだろ。みっともなくて情けなくて、それで――」
「笑わなくていいよ」
 ぴしゃりと、智幸は真顔で言った。
「そういうの、笑わなくていいから」
 俺は作り笑いをやめていた。筋肉の痛みはなくなった。
「むちゃくちゃだよ、君。なにヤケになってるの?」
「なってねえよ」
「なってるよ。子どもみたい」
「子どもじゃねえよ」
「子どもっていうか、ガキだね。君って言ったあとですごい後悔するタイプでしょ」
 ギクリと心臓に釘が刺さった。屋上での〝特別な時間〟で俺が言った告白紛いのセリフが蘇って気恥ずかしくなった。
 こいつ、やっぱりあのときのことちゃんと覚えてるんじゃないか?
「あんな言い方、ダメに決まってるでしょ」
 三ツ矢サイダーを一口飲んで、智幸は叱るように言った。
「やさぐれすぎ。ひどい映像だったよ。君、なんか怒ってるし、カメラ睨みつけてるし。ただでさえ目つき悪いんだから、もっと朗らかにしなくちゃダメでしょ。私が編集なら絶対に使わないよ、あれ」
「ひでえ映像なのはわかってるよ。俺でも使えねえと思うよ」
「じゃあどうしてあんなことを」
「……嘘つくのはもっとひでえって思ったんだよ」
 むくれる俺を智幸はしばし見つめて、そして口を開いた。
「バカだね、君は」
「知ってんよ」
 智幸の口調は俺をけなしたというより、つまずいてひざを擦りむいた子どもを慰める母親みたいな言い方だった。
「とにかく、出るとこには出たからな。次は君島の番だ」
「……私か。私はどうすればいいのかな」
 戸惑いが滲んだ言葉は夜の闇に溶けた。
「君がバカ正直にあんなこと話すから、ここにきて私も考えちゃって……カメラを通して伝えるべき言葉、まだ決めてないんだ。迷っているっていうか、なんていうか……」
「好きにすればいいんじゃねえの。なにを話すのも本人の自由だ」
「私の趣味を話すとか?」
「悪くないんじゃね。たぶんみんなお前の趣味とか知らないだろ」
「将来の夢は? ありがちかな」
「ありがちだけど、大事なことだと思うぞ」
「大好きなオットーセイくんのPR?」
「君島の自己PRになってないよな、それ」
「――じゃあ、神様にイタズラされたこととか?」
 俺はきょとんと目を丸めた。
 神様?
「たぶん、それを口にしたら――」
 智幸は言いかけて、「あ」と持っていた三ツ矢サイダーがするりと滑り落ちた。まるで握力を失くしたみたいに。ぼとり、とペットボトルが地面に落ちる音。キャップをしてないから飲み口からサイダーがこぼれていく。
 智幸は慌てていなかった。容器から中身がどばどば溢れ出て、シュワシュワと炭酸が弾けながら、やかげて敷き詰められたタイルに吸われて消える――その様をぼうっと見つめていた。不気味なぐらい落ち着いて。
「もったいないことしちゃったな。まだちょっとしか飲んでないのに」
 ペットボトルは半円を描くように俺の足元まで転がってきたので拾った。
「こういうのってさ、たくさんあったから失くしたときもったいないって思っちゃうんだよね。はじめから空だったら失くさないから後悔もしないのにね」
 ほとんど中身がなくなったペットボトルを見て智幸は長い睫毛を数センチ下げた。夜が濃くなっているせいか端正な顔立ちに翳りが差している。
「違うだろ」
「え」
「よく見てみろよ」
 俺は軽くなったペットボトルを智幸の目の前で二度三度揺らす。ちゃぷちゃぷと容器の中でサイダーが跳ねる音。
「まったくの空ってわけじゃねえよ。まだ少しだけ残ってるだろ。ペットボトルの首が細いから全部はこぼれねえんだよ」
「でもほとんど残ってないよ」
「それでも空じゃないだろ。全部なくなったわけじゃない。残るやつもあるんだ。ほら、次はもう落とすなよ」
 ほとんど中身のない残ってないペットボトルを智幸に返す。一度落としているからいまさら飲む気はしないだろうが、このままキャンパス内に捨て置くわけにもいかない。
「最近ちょっと疲れてて、うっかり落としちゃったんだと思う」
 間近で智幸の顔つきを見ていまさら気づいたが、目はとろんとしていてまぶたは重そうだった。頭は鉛でもついてるみたいに下がっていて顔色もどこか青白い。まだ夜の大学に慣れてなくて疲れが溜まっているのだろうか。
「あーあ。せっかくの三ツ矢サイダー、もったいないことしちゃったな」
 何度目かの後悔だった。
「バカだな、お前も」
「知ってる」
 智幸はのそりと立ち上がった。
「そろそろ休憩終わりみたい。笹野さんが手を振って呼んでる」
「疲れてんじゃないのか。もう少し休んでからのほうがいいだろ」
「もたもたしてると遅くなっちゃうから」
 俺も立ち上がって智幸と一緒に撮影機材があるところまで行ってみんなと合流しようとしたところで、海が大学の警備員さんとなにやら話していた。
「どうした?」
「あ、九。ひとまず正門閉めちゃうから、撮影するなら別の場所にするか、また別ににして撤収したほうがいいんじゃないかって」
 時刻を確認すれば深夜になっていた。撮影に夢中でまったく気づかなかった。
「……ここまでか」
 タイミングが悪い。せっかく念願だった智幸をこれから撮るというのに。
 でも、ひとり分の撮影ならすぐに終わる。警備員もそろそろと言っていたなら、いますぐ撤収しなくても――そんな欲が出たが、智幸の石のように白い顔を見て冷静さを取り戻した。
「仕方ない。今日はここで引き上げるか」
 これ以上の撮影は明日に響くし、智幸も疲れていそうだったので無理はせず打ち切った。
 本音を言えば、多少無理してでもあいつを撮りたかった。
 それでもチャンスはまだある。明日か、三日後か、来週か、一ヶ月後か、それはわからないけど、同じ班なんだから撮影の都合はつきやすい。
 そう思っていた。
 ――次の日から智幸は大学にこなかった。

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