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 ←11話 条件 →13話 神様のイタズラ
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青春アメとミエナイ彼女

12話 撮影開始

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   ※

 出演交渉はすぐに終わった。
 堺ゼミのメンバーは快く引き受けてくれて、全員出演してくれることになった。
 ただ、仕事が忙しくて都合がすぐにつかない出演者もいて、一気に撮影というわけにはいかなかった。平日はみんなたいてい忙しいし、授業後も夜勤に出るやつだっている。だからといって貴重な休日にお願いするのはさすがに申し訳ない。
 そういう事情から出演者たちの撮影スケジュールは飛び飛びで間延びしている。一ヶ月以上先でないと撮影できないって出演者もいるぐらいだ。
 上映会が七月上旬。撮影を終えたあとは編集作業にかかりきりになるから、完成は提出期限ギリギリになりそうだ。
 さて、本日は、はじめての撮影だった。
 撮影場所は暗闇にでんと構える六号館校舎前。春の星座が瞬く夜空の下で、俺たちは撮影の準備をしていた。役割は真季が照明、海がレフ板、俺がカメラ撮影で智幸が撮影補助だ。
 本日の出演者は山元浩こと山さん。昼は旅行代理店で働いているサラリーマンで、夜はメディア学科の大学生だ。
 ショットはフルショット。人と場所によってはバストショットやロングショットなどに切り替えて映像にメリハリをつける。カメラアングルも同様で基本アイレベルだけど、ローアングルやハイアングルにも変える。ただ画面は常にひとりで固定だ。
 撮影準備をしていると、背広姿の山さんがちょっと困ったように短髪をわしわしと掻いていた。
「いつもおれが撮ったり取材したりする側だから、いざ自分が撮られるのは緊張すんな。なに喋っていいかわからなくなるわ」
 山さんの表情が硬い。できれば出演者は自然体で映したいのだが……。
 俺はどうアドバイスすればいいか悩んでいたところ、すぐ横で三脚をセットしている智幸を見て閃いた。
 こいつを使おう。
「山さん、君島をカメラの横に立たせるからさ、君島に話しかけるように喋ってみてよ」
 私? と智幸が首を傾げた。
「君島はさ、まだ二部に来たばっかりでみんなのこと知らないんだよ。ある意味で、この映像を観てくれる人間の立場に近い。だから友達に話すみたいにこいつに語りかけてくれればいいよ。今日は撮影というより、君島と話しにきたぐらいの気楽さで」
「アハハハ、撮影はおまけかよ。ま、そう言われるとおれもやりやすいな。んじゃよろしく頼むわ、君島さん」
「あ、うん。よろしく」
 メンバーが撮影準備を終えたことを確認して、「それじゃ、撮影をはじめるぞ」と俺は合図を出してカメラを回した。

   cut.1 山元浩

「おれが夜の大学通ってる理由は……そりゃ夕方までリーマンやってるからだな。で、こんな背広姿なわけだ。今日も今日とて定時退社かましたら上司に嫌味言われてよ。『山元君は偉いねぇ、勉強のために残業しないんだもんねぇ』って。まったく社会はヤだねぇ。
 けど大学はいいぜ、上とか下とかねえからさ。そんなわけでおれの将来の夢は『テスト期間中なんで部長の胃に穴ができるほど有給使わせてもらいます!』って言うことだな。ワハハハ。あ、大学卒業したら記者になることも忘れてねえよ。どっちもいい夢だろ?」

 撮影が終わって智幸が「社会人、大変だね……」と口元を引きつらせていると、山さんは豪放磊落といった感じで笑っていた。「ま、おれみたいな人間でも通えるからここはいいとこだな」と。
 二回目の撮影は三日後。出演者は六十歳の京子さん。スマホを片手に、カメラレンズにしわらだけの笑顔を投げかける。

   cut.2 磯山京子

「あたしの故郷は減反でねぇ。どんどん過疎化が進んじゃって老人が孤立しちゃっているのよぉ。もお、本当に嫌ねぇ。どうにか老人たちが気軽に繋がれないか考えて、そこで思いついたのがこれ、高齢者用SNS『シニア万歳』。あら、ちゃんと映ってるかしら?
 ブログや写真投稿からメッセージのやりとり、シニアでも使いやすいようにシンプルな機能にしてあるわ。ほら、こんな感じ。それでこの運営、あたしがやってるの。孤独死なんて笑えないものねぇ。ぜひ登録してくださいな」

「君島さんも祖父母がいらっしゃったらぜひ『シニア万歳』、よろしく伝えておいてね」と撮影後に京子さんは智幸に声をかける。
「あ、そうそう。こないだうちの畑でイチゴが獲れたの。うちのイチゴ甘くておいしわよぉ。今度授業のときに持ってきてあげるわね。遠慮しないで食べなさい食べなさい」と京子さんは孫に接するような優しさに智幸本人も「は、はあ」とちょっと困ったように頬を掻いていたが満更じゃなさそうだった。
 出演者にいちいち驚く智幸はなんだかおかしくて、ちょっと笑うと「なんで笑うかな」と仏頂面になっていた。
「どうしてこうも出演者に絡まれるのかな、私」
「どんどん絡まれてくれ。そのほうが出演者の緊張が解けていい画が撮れる」
「もうなんだかお腹いっぱいだよ」
 なんて智幸は肩をすくめるが、なんでだろう、こいつがほかのゼミ生と話している光景を見るのは悪くなかった。
 撮影は順調だった。着々と撮影スケジュールをこなしていき、次の出演者の撮影は一週間後でそれまでぽっかりと空白ができてしまった。
 だからそのあいだを利用して、今回は撮影班の俺たち自身を撮ることになった。



 夜空に輝く檸檬色の月。桜の花びらはすでに散って鮮やかな緑の葉が夜の闇に溶け込んでいた。
 校門から校舎へと続くゆるやかな勾配の半ばほど、そこに俺たち四人は集まって撮影機材をセットした。
「とうっ! あたし、爆☆誕! フハハハハハ!」
 特撮ヒーロー系の変身ポーズで高笑いしていたのは真季だ。
「こんな感じでいきなりあたしが画面に現れたら面白くない? 面白いよね! よしこれでいってみよー!」
「いくな。戻れ」俺は手刀でぽかっと真季の頭を叩いた。「真季、ウケ狙わなくていいんだ。いつも通りでいいんだ。いつも通りで」
「別にあたしはいつも通りだよ? ほら、テンションの高さとか!」
 真季が両手を広げ陽気なステップを踏みながらくるくる回り、プリズムみたいな眩い笑顔を放っていた。
「あたしの頭上はいつも晴れなのさ。晴れてるから笑ってるんじゃないよ。笑ってるから晴れてるんだ。これがあたし笹野真季、ぶい」
 頭を抱えた。
 海だけが「うん、やっぱり真季は可愛いね。撮った映像は大切に保存して真季と会えないとき何度も見返そう」と楽しげだ。
 勘弁してくれと頭痛がしたとき、きゅっとシャツの裾が後ろに引っ張られた。
 振り向くと、智幸だった。
「三浦くん。笹野さんの映像が気にいらないならカットすればいいんじゃないかな」
「お前さりげなくひどいな」
「間違ってるかな?」
「妙案だ。よし、それでいこう」
「こらーっ、聞こえてるよ二人ともーっ! ていうか聞こえてるように言ってるよね! わかったよう、特撮ヒーロポーズはやめちゃるけん。あたしもつまんないって思っちゃった。フツーにやってあげるよ、フツーに。というわけで、あたし登場と同時に編集でどばばばーんって爆発エフェクト盛大によろしくぅ」
「どこが普通だ。ほら、アホ言ってないでさっさと撮影はじめるぞ」
 被写体をやや見上げるようにビデオカメラの高さを調整。フレームにおさめた光景は照明に照らされた真季の笑顔だ。

   cut.3 笹野真季

「そこの少年少女、深夜ラジオは聴くかい? あたしは小っちゃい頃から聴いてたよん。
 両親が新聞社で働いてて帰ってくるの朝なんだよ、朝。仕事好きすぎて夜中子どもほったらかしなんてひどくない!? どんだけって思わない!? ま、夜更かししてラジオ聴いてたから別にそこまで寂しくなかったけどねー。
 あるときね、贔屓にしてるラジオ番組のパーソナリティがさ、『なんか悲しくなったらすげーくだらないこと考えて、オレのところにメール送ってよ。そしたらそれ声にするから一緒にくだらないことで笑おうぜ』って言ってたの。それ聞いてめっちゃ嬉しくてさ、あたしも将来はラジオ局就職してーって思ったわけ。
 フフフ、あたし人気パーソナリティーになっちゃうかもよ。お宝VTRになっちゃうんじゃない、これ。サインがほしかったらうちの学部に入部することだね! フハハハハ!」

 どうだっ、と調子づいてカメラ横にいた智幸にピースサインをする真季。智幸は肩をすくめて「前半部分はともかく、後半部分はカットかな」と辛口批評に「無慈悲! トモちんは無慈悲なのか! それが御大将のやることかっ!」なんておどけていた。
「これでもちゃんとやったんだからね。大事なことは伝えてるのだ」
 真季の目線の先には海がいて、海は穏やかな微笑をたたえていた。
「じゃ、次は僕が行こうかな」
 二番手に名乗り出た海は機材を真季に手渡してカメラの前に立った。「自分のことを話すのはなんだか照れくさいね」と頬を掻きながらもとつとつと語りはじめた。

   cut.4青山海

「僕は高校を卒業してバックパッカーになったんだ。旅に出た理由は……そうだね、進むべき方向性がわからなくなったんだ。
 気づいたんだ。進学が決まった大学は僕が望んだ進路じゃなくて、親が進ませたい進路じゃないかって。そしたら急に怖くなって……。
 自分がなにをしたいのか、なにをすべきなのか、ちゃんと考えたくなったんだ。
 それで、ネパールを旅してるとき中年の男性に声をかけられて、ネパール原産のコーヒーを飲ませてもらったんだ。それがおいしくて、とにかくおいしくて。うまく言葉に表せないけど、ああ、これでいいんだなって思ったんだよ。
 僕はいま定期的にネパールに行ってコーヒー栽培を手伝って、日本でネパール原産のコーヒー豆を扱ったカフェの手伝いをしているんだ。というわけで、おいしいネパールコーヒーが飲める『カフェ・カトマンズ』は白山駅から白山通りを歩いて十分の場所にあります。詳しいことは検索してください。遊びにきてね」

「現地のネパール人に言われたんだ、『日本人には感謝してる』って」
 カメラを止めたあとも、海は智幸に話しかけていた。コーヒーを飲まず嫌いの智幸に伝えたい思いがあるのだろう。
「一昔前は栽培方法も効率が悪くて味もいまいちで、その上安く買い叩かれてたんだ。コーヒーを栽培しても栽培してもネパールの労働者たちの生活はよくならない……。でもね、NPOに所属している日本人が改革したんだよ。栽培方法を一から見直して、研究して、おいしいコーヒー豆を作ったんだ。日本にカフェを立ち上げてフェアトレードを通して利益を上げる。コーヒー栽培が雇用を作って生活を支えて、生産性が上がれば笑顔が増えて、素敵なことだと思ったんだ」
「そういうこと、カメラに向かって話せばいいのに」
「原稿作って練習したんだけど、宣伝第一って考えたらどうしても尺が足りなくてさ。でも、君島さんに伝えられてよかったよ。ネパールのこととか、コーヒー栽培を改革した日本人のこととか」
「立派だと思うよ。その人。なにも知らない私が言うのは変かもしれないけど」
 嫌味ではなく、智幸は純粋に賞賛しているように見えた。
「死んじゃったんだけどね、その人」
「え」
「現地で強盗に刺されたんだ。やだね、治安が悪いってのはさ。いい人なのにあっさり亡くなっちゃうなんて、残酷だ」
 海は悲哀混じりの微笑を浮かべた。そしてぼんやりと中空を見つめ、ここではない、遠く、別の世界を見据えているようだった。
「僕がやりたいことは二つ。ネパール原産のコーヒー豆を、メディアを利用して広めること。どんなメディアを使えばいいかはいま勉強中だね。あと一つは……さっき話した日本人の意志を継ぐなんてかっこいいもんじゃないけどさ、ネパールに飛んでコーヒー豆栽培の生産性を上げ、流通に乗せることなんだ。だから大学を卒業したら向こうに住むんだ」
「それって……」
 日本を飛び立つということは、約束された別離がやってくることと同義。その意味を智幸は察したのか真季のほうを一瞥した。けれど真季の瞳は揺るぎなく、堂々と構えていた。
 俺は知っている。こいつらの中ではすでに決着のついた問題であることを。 

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