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青春アメとミエナイ彼女

10話 【企画会議3】Girls On Film

 ←9話 【企画会議2】ゆるキャラ →11話 条件


 タイトルは『夜に学ぶメディア学科の学生たち』。
 内容としては、二部メディア学科堺ゼミに通う学生たちをひとりずつ映して、自己PRしてもらう。PR内容はそこまで厳格なルールがあるわけじゃない。メディア学科で学んでいる理由、メディア学科の中で楽しい授業、将来の夢など、要するに自分たちを撮るのだ。
「へぇ、意外だね。九から自分たちをウリにした企画を持ちこんでくるなんて」企画を読み終えた海がなぜか嬉しげに口元を緩める。「九はあまり自分のことを好きに思えてなかったからさ」
「PR映像ってことを意識したら、そういう発想になったんだよ。観てくれる人はうちの学部にどんな人がいるのか知らないのが大半だと思ってさ。だったら、俺たちを撮ってみればいいんじゃねえのって思ったんだ」
 半分は本心。
 残り半分はごまかした。
 まぶたの裏には、屋上で夜の闇を背負った彼女が焼きついている。たぶん、アイデアの根源は知りたいと思ったのだ。あいつをフィルムに刻んで。
「いいじゃん! あたしは好きだよこの企画! 大学の『場所』じゃなくて、『人』に着目したところがあたしと同じだ」真季が賛同してくれると、海は目を通しながら企画内容を口にした。「ひとり辺り二十秒ほどのカットを作って、カットとカットを繋げてテンポのいい映像を作る。出演者の予定は堺ゼミの学生たち、ね」
「まだ出演交渉してないんだよね? みんな出演してくれるの、これ?」
「きっと出演してくれるだろうね」
 智幸の疑問に、微笑んで返したのは海だ。
「みんなの都合もあるし全員参加してくれるかはわからないけど、映像にできるぐらいには出演してくれるよ」
「どうしてそう言い切れるのかな?」
「みんな九に借りがあるからだよ。去年ノート貸してもらったり、病院に付き添ってもったり、引っ越しの荷物運びを手伝ってあげたり。君島さんも二部に来たとき案内してもらったでしょ。文句言うけどなんだかんだで面倒見がいいんだよ、九は。そういうわけだからゼミ長を任されているわけだし。みんなに作った借りに付け込んで頼めば問題ないよ」
「人聞きが悪いことを言うな。いままでのことはゼミ長だからやっただけだ」
「僕を助けてくれたむちゃくちゃさもそれで説明できるかな?」
 智幸が小首を傾げてる。海のやつ、智幸の前で余計なことを……。
 俺自身、海のように考えているわけではなかった。ノリのいい連中が多いので、ぼんやりと参加してくれるだろうって程度の意識だ。
「九ちゃん九ちゃん、質問質問」
 真季が挙手した。
「出演者は堺ゼミってことは、あたしたち撮影班も出演するの?」
「そうだ。俺はカメラマンやるから映らないけど、真季、海、そして君島はちゃんと撮るよ。だからお前たちはカメラになに話すか考えておいてくれ」
「了解したであります、隊長!」と真季がおどけたように敬礼して、「ねえ海ちゃん、なに話せばいいかな? もうここはいっそあたしが水着着ちゃう? あたしの水着で再生回数バリバリ稼いじゃう」「真季の水着動画なら僕が一日千回は再生カウンター回すかな。あ、でも水着は僕だけに見せてほしいな」「そういう素直なところ、イエスだね海ちゃん!」なんてバカ話で盛り上がっていた。
 二人は撮影に乗り気だった。二人は。
「――え。映りたくないよ、私」
 だから、あっさり智幸に反対されて少し虚をつかれた。
「え……えっ!?」
 目論みが簡単にかわされて、自分でもびっくりするほど驚き声を上げていた。
「なにそんなに驚いているのかな、君」
「いや、ちょっと待て。待ってくれよ。君島が映らないとそれは……」
 焦った。俺にとっての企画の中心がこのままじゃぽっかり空きそうで、焦燥感がじりじりと足元から這い上がってくる。
「どうして嫌なんだよ君島?」
「フツー嫌でしょ、カメラなんて。恥ずかしくて映りたくないよ」
「で、でもさっ」
「ていうか、別に私ひとり映らなくても問題ないんじゃないかな。堺ゼミの人たち出演者してくれるんでしょ。笹野さんと青山くんも出演するし、尺的には十分足りるはずだ」
「それは」
 正しい論のように聞こえた。堺ゼミの受講生は十二人。俺と智幸を除いて全員参加してくれるなら十人。十分に映像に仕上げられる人数だ。
「け、けど、もし病欠や特別な事情で出られない出演者がいた場合困るだろ。予備として撮っておいても……」
「へぇー、予備なんだ。撮影班の映像は」
「い、いやっ、別に軽く見ているとかじゃなくてだな」
「私にこだわる理由はないでしょ。ちゃんとした理由がないなら出演なんてしなくていいはずだよ」
 智幸がガチガチに固める理論武装に、どうにも俺は反論を組み立てて崩すことができない。どうする。どう説得すればいい。
「それとも君にはあるのかな、私を撮らなくちゃいけない理由?」
 値踏みするような智幸の視線。水晶のような透明な瞳がこちらに向いて、内面を見透かされそうな気分になった。だからごまかした。ありきたりな言葉で取り繕った。
「それは、みんな撮る予定なんだから君島も参加するもんだと」
 言って、すぐに後悔した。
 口から出たのは中身のない空っぽな言葉で自分でも嫌気が差した。
 フォローしようと言葉を継ぎ足そうとして、神に見放されたように授業終了のチャイムが鳴った。
「企画は私もこれでいいと思うよ」智幸は俺の企画書をファイルケースにしまって席から立ち上がる。「でも、私は撮影に従事するよ」
 綺麗な亜麻色のショートを手で弾いてスタスタと教室から去っていく智幸。俺はその背中を見送ることしかできなかった。
「あーあ、フラれちゃった。バカだねー、九ちゃんは」
 バーカ、バーカ、と真季が俺の脇腹を小突いた。
 割と、堪えた。



 ゼミが終わって俺たちの班は教室で解散した。
 思い返せば、智幸は屋上での一件を一言も話さなかった。あの日を思わせるセリフすら微塵もなかった。ゼロ。本当になかったみたいだ。
 だから俺もなにも言わなかったし、言えなかった。
 というか、あんな別れ方をしたらなんて声をかければいいのかわからない。
「なにやってんだ、俺……」
 カメラを通して智幸をフィルムの一コマに焼きつければ、なにかが見えてくるかもしれないと期待した企画書。けれど当てが外れちまった。
「腹、減ったな……」
 落ち込んでも腹の虫はぐうぐう鳴るので、俺は食堂に向けてひとりとぼとぼと大学の通路を歩いていた。その途中に掲示板があって、授業変更や大学行事の案内などの張り紙がピンで留められていた。
「あ――」
 思わず、足が止まった。
 ずらりと並ぶ張り紙のなかで、ある張り紙がやけに目に留まったのだ。

   社会学部 転部転科説明会

 説明会の時期は六月下旬。転部転科を希望する生徒は必ず出席すること。出席できない場合、特別な事情でない限り、転部転科の希望は受け付けない――そんな内容が書かれている。
 転部転科する学生はちらほらいる。学生生活を過ごしていく上で研究したいテーマが変わって学科を変更したい。経済的な事情で一部の授業料が払えないから二部に転部する。理由は様々だ。
 実際に智幸も一部から二部に転部してきた。
 無論、二部から一部に転部も可能だ。
「…………」
 ――普通じゃないよね。
 なぜだかそんな呪いがかったようなセリフが脳裏に蘇った。
「……知ってんよ」
 張り紙の内容をまぶたの裏に焼きつけて、俺はその場を離れた。



 食堂に足を運んだのは実に一週間ぶりだった。阿藤と一悶着を起こして以来だ。
 苦々しい記憶こそあったものの、洋食屋の前を通るとトマトソースの甘さと酸味がほどよく混じった匂いが鼻腔をくすぐって忘れさせてくれた。いまさらどうでもいいことだ。仮に鉢合わせても無視すればいい。
 俺は食券を買って洋食屋の店員に渡した。店員がトレイの上に乗せたのは、アイスティー、サラダ、パンナコッタ、そしてめんたい生クリームと完熟トマトのハーフ&ハーフ大盛り。茹でたての湯気立つパスタにふんだんにかけられたソースを見ると、パブロフの犬よろしく口の中は唾液で濡れそうだった。
 トレイを運びながらどこに座ろうか席を探し歩いていると声をかけられた。
「――あ、三浦くん」
 まさかの聞き慣れた声に仰天した。危うくトレイから食器を落としそうになった。
 声がしたほうを見ると、智幸はナンカレーを食っていた。
「うわっ、君島!?」
「うわって、なにその反応……。女の子を前にうわっ、はないよ、フツー。なんだか化物見たかのような狼狽っぷりだ。ひどいね、君」
 智幸のジト目が突き刺さってやけに痛い。
「あ、いや、違う! そうじゃなくて、いきなりでちょっと驚いただけだ」
「ふーん」
 まさか食堂で智幸と出くわすとは。
 どうしよう。気持ち的にはひとりで飯を食う予定だったけど、このまま「じゃあまた今度」と去っていくのは同じゼミの仲間なのにおかしいだろう。かといって馴れ馴れしく同席していいものだろうか。さっきのゼミでの気まずさも多少ある。「一緒に飯を食おうぜ」なんてキャラでもないしな、俺。
 どっちつかずの感情のままトレイを持って逡巡していると、智幸が小首を傾げた。
「どうしたの? 立ってないでそこ座ったら」
「あ……ああ。じゃあ」
 俺はトレイをテーブルの上に置いて、智幸の対面に腰を下ろした。どこかぎこちない俺とは対照的に、智幸の顔つきは平然としていた。こいつ、本当に屋上の記憶を失くしてるわけじゃないよな?
 テーブルを挟んで向かい合う俺と智幸。距離感はゼミのときと変わらない。二人きりという点をのぞけば。
 ――普通じゃないって、どういうこと?
 そう、問いただすチャンスだった。

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